この記事でわかること
- 労務の内製化をおこなうことのメリットとデメリット
- 内製化できる具体的な業務と内製化する上でのポイント
- 労務の内製化に失敗するケース
この記事でわかること
アウトソーシングつまり企業が外部に業務を委託すると、社内にノウハウがなくても専門性の高い業務をおこなうことができ季節的な業務量の変動にも対応できますが、その分だけ費用がかかります。
人事・労務業務において費用が大きな負担となっている場合は、内製(インソーシング)することでコスト削減を図ることが可能です。
労務の内製化を検討する上で知っておくべきメリット・デメリットや、内製化でDXする方法、内製化に失敗しないためにはどうすればいいのか、逆にアウトソーシングが効果的な場合などについてまとめました。
目次
労務の内製化をおこなうことのメリットとデメリットは、以下のとおりです。
アウトソーシングをおこなうと業務の目的を達成することはできますが、途中経過のプロセスを把握することはできません。このため業務がブラックボックス化し、効率化や生産性向上を図ることができなくなります。
労務の内製化に成功すれば、社内にノウハウを蓄積し人材を教育、さらなる生産性向上を目指すことが可能になります。
社外に業務を委託する場合でも、委託前にデータの加工が必要なケースが存在します。アウトソーシングの際に担当者が単純な転記やチェックを何度もおこない、誤りを発見した場合はさらにチェックを繰り返す……といった作業時間が多い場合は、適切に内製化することで、作業時間を削減することができます。
内製化をおこなうと労務のやりとりに第三者を挟まないため、全体的な進行スピードがアップします。委託先では対応できないイレギュラーな事態についても、迅速に対応し、トラブルを回避することができます。
アウトソーシングをおこなう場合は、従業員の個人情報や給与計算業務に関する重要な情報を委託先に渡さなければなりません。
委託先による情報の取り扱い方によっては、インターネット上に情報が流出したり、悪用されたりといったことも考えられます。内製化は重要な情報を社内にとどめることができるため、情報漏洩のリスクは低くなります。
給与計算や社会保険手続きは、専門的な知識を要します。知識を有する特定の人物しか業務を進められない状態では、その人物が休職・退職などしたときに業務がストップしてしまうというリスクがあります。
内製化するためにすでに存在する従業員に作業を割り振ると、 そのぶん従業員の負担は増加します。また重要な情報を扱っていることから、情報管理の心理的負担が増すことも考えられます。
少人数の担当者で業務にあたる場合、特に担当者の経験が浅いと残業が増加する傾向にあります。繁忙期には残業が増加したり、一時的に人員を増加させることも考えなければなりません。
また人件費以外にも、PCやシステムなどの設備の導入費用や維持費がかかります。
労務の業務範囲は広いため、専門知識を有する人材を育成するためには日常業務の範囲を超えた教育や研修が必要です。育成する人材を選定し、教育のためのチームを構成し、実際に教育していく……、というプロセスには長期的な視点を要します。
労務の内製化を進める方法は主に以下の2つがあります。
労務の専門知識を有する担当者を置くと、給与計算・年末調整・社会保険手続きといった日常的な業務がスムーズにおこなえるだけでなく、
など強い組織を作るために重要な施策を充実させることができます。
効率よく労務の業務をおこなうためには「単純な事務作業や計算処理業務といった定型的な業務」と「人の関わりが必要な非定型的な業務」に分け、前者をコンピューターで効率化していくという発想も重要です。
また、これらの作業を専門的な知識なしでおこなえるようになるため、担当者が入れ替わっても混乱が生じにくいというメリットもあります。
定型的な業務をシステム化することで、社内のDX化を進めることもできます。日本では将来的に企業の人材不足が予想されていますが、DX化を進めることでコスト削減を図りながら人材不足に対処し、より優秀な人材を集めることに集中できます。
給与計算の業務には、以下の2つの目的があります。
給与計算業務の目的
2つの目的を遂行するためにはまず勤怠管理を適切におこない、複数の店舗や営業所からタイムカードを期日までに回収して、データを集計する必要があります。また、
に対する賃金を支給するための知識や、社会保険料や所得税の計算をおこなうための法律の知識も必要です。
このため、給与計算の業務を内製化する場合は「知識のある人が会社に存在するのか?」「いない場合は代わりに給与計算ソフトを導入できるか?」という点が検討すべき課題となります。
年末調整は書類の送付・回収からはじまり、期限が過ぎれば電話やメールでの督促、書類に不備があれば差し戻し、従業員からの質問に答え、再度回収……と工数が膨大になる傾向にあります。
年末調整を人的リソースで内製化する場合は「一時期だけ作業をする人員を増やす」という方法になりますが、人員の確保に別途準備が必要であることや、入った人員に教育する時間や手間についても考慮する必要があります。
社会保険手続き業務は、従業員の入退社や結婚・離婚といったライフイベント、年齢に伴って発生する手続きなど、多岐におよびます。知識や経験がないと都度内容を調べることになり、時間と手間を要します。
また、毎年おこなわれる法改正により手続きが変化していくため、常に情報のアップデートが必要です。手続きに関して従業員とのやりとりが必要なケースも多いため、内製化の際には以下がポイントとなります。
コスト削減を目的に何もかもを内製化してしまうと、逆に従業員の負担が増加したり、仕事の質が落ちたりするリスクが考えられます。
まずは内製化で削減できるコストと増加する負担やコストを可視化し、「増員するための人件費・設備投資よりも削減コストの方が大きい」業務について内製化を考えます。
内製化において今いる人員に労務の業務を割り振る場合、一見するとコスト削減が図れるのですが、マルチタスクによってコア業務が疎かになることが考えられます。
このような「生産性の下落」は目に見えづらいものです。単純な人件費と外注費の比較だけでなく、組織全体の生産性に悪影響が出ない方法で内製化を進めることが大切です。
担当者が1人しかいない場合は、急な病欠で企業全体の労務手続きや給与計算、勤怠締めなどがストップしてしまう危険性があります。
担当者が少ない場合は専門知識がなくとも業務を進められるようにすべく、「脱属人化」を前提として効率化を進める必要があります。
労務の業務をアウトソーシングする場合は、主に以下の2つの方法が考えられます。
アウトソーシングする方法
いずれの方法を取る場合でも、まずは「何を・どこまで・なぜ」アウトソーシングするのかを決めることで、目的に合致した委託先を選ぶことができます。
社労士事務所や代行サービスに業務をアウトソーシングする場合、委託先によって使用するシステムが決まっていることがあります。
社内で使用するシステムと委託先のシステムが異なると、かえって業務が煩雑になることが考えられるため、システム導入の際には業務全体の連携方法やフローを把握しましょう。
労務のうち、給与計算では個人情報を扱います。また社会保険手続き業務ではマイナンバーなどの特定個人情報も取り扱います。
このため、業務の委託先である企業がセキュリティに関して第三者機関の認証を受けているかどうかや、情報の保管場所として使用しているシステムのセキュリティ強度を確認する必要があります。
労務の内製化を検討するには、まず内製化の目的を明確にすることが大切です。
など目的を明確にしたうえで、どのような方法で、どの業務を内製化すれば目的を達成できるのかを検討します。
このとき、まずは業務を「定型的業務」と「非定型的な業務」に分け、定型的な業務をコンピューターで、非定型的な業務を人的作業で解決することがポイントになります。そして、
といった方法で内製した場合に、アウトソーシング時と比べて、状況がどのように変化するかをシミュレーションします。なお、業務そのものだけではなく全体の連携方法やフローを確認することで、「内製化したことでかえって手間やコストが発生した」という事態を防ぐことができます。
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