この記事でわかること
- 厚生年金保険の加入条件は従業員の雇用形態や企業の規模によって異なる
- 従業員の加入条件は、企業に常時雇用されており70歳未満であること
- 企業の場合は、従業員が1人でもいる場合は強制適用事業所となり加入が義務付けられる
この記事でわかること
2022年10月に厚生年金保険への加入対象となる企業の規模が変更されました。
2024年10月にも厚生年金含む社会保険の加入条件について、さらなる改正が予定されているため、人事・労務担当者は、厚生年金保険への加入条件を正しく理解しておかなければなりません。
この記事では、厚生年金保険の加入義務がある従業員と企業の条件を紹介。パートやアルバイト、個人事業主など一般社員以外の方の加入条件も詳しく解説していきます。
目次
厚生年金保険とは、主に会社員の方が加入する公的年金のひとつです。
厚生年金以外の公的年金として「国民年金」が挙げられますが、国民年金は被保険者が納める保険料が一律なのに対し、厚生年金保険料は所得によって異なります。
「給料から厚生年金保険料を引かれたくない」「手続きの負担を増やしたくない」といった思いから、厚生年金への加入を懸念する事業主・従業員の方もいるかもしれませんが、厚生年金への加入は下記のメリットがあります。
厚生年金に加入するメリット | |
企業側 | ・従業員が安心して働ける労働環境整備の一環として機能する ・優秀な社員の定着や離職防止 ・人材採用の活性化 ・厚生年金保険料は経費として計上が可能(節税) ・企業価値・従業員エンゲージメントの向上 ・社会的信用による事業拡大 |
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従業員側 | ・全額自己負担である国民年金保険よりも金銭的負担を軽減 ・配偶者の厚生年金負担がない ・国民年金よりも年金受給額が増える(遺族年金・障害年金の給付対象) ・安心して働ける |
なお厚生年金保険の加入義務がある方が未加入の場合、保険料を遡って徴収される可能性もあるため、現時点の加入条件をしっかりと把握し、加入漏れを防ぎましょう。
厚生年金保険の加入条件については、平成29年4月から段階的に法改正がおこなわれており、今後は2024年10月にさらに適用範囲の拡大が予定されています。
厚生年金保険に加入義務がある従業員は、以下の2点を満たしている方です。
この2点を満たしている場合、厚生年金保険に加入しなければなりません。加入条件に国籍や性別、年金受給・雇用契約書の有無は問いません。
また、国民年金は60歳未満の方が加入対象ですが、厚生年金保険は70歳未満まで加入義務があります。しかし、加入期間が短いなどの理由で70歳以降に年金を受け取れない方は、70歳を超えても厚生年金保険への加入が可能です。
一般社員の週の所定労働時間および月の所定労働日数の4分の3以上ある従業員の方は、パート・アルバイト・契約社員などの雇用形態に関わらず、厚生年金保険への加入義務があります。
勤務先が、特定適用事業所・任意特定適用事業所または国・地方公共団体に属する事業所のいずれかの場合。
またこの条件を満たしていなくても、以下の加入条件を満たす方は厚生年金保険に加入をしましょう。
冒頭でもお伝えした通り、これまで厚生年金保険の加入条件は段階的に広くなっています。2022年10月からは企業の規模に応じて、厚生年金保険・健康保険の適用範囲が拡大されました。
~2022年9月 | 2022年10月~ | |
特定適用事業所の条件 | 従業員数500人超 | 従業員数100人超 |
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雇用期間の条件 | 見込み雇用期間が1年以上 | 見込み雇用期間が2カ月以上 |
さらに2024年10月からは、厚生年金保険に加入している従業員数が50人超えている企業に雇用されている短時間労働者も、厚生年金保険への加入対象となります。
~2022年10月 | 2024年10月~ | |
事業所規模 | 従業員数 100人超 |
従業員数 50人超 |
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下記の従業員は、強制適用事業所に雇用されていたとしても厚生年金保険への加入義務はありません。
企業の場合、厚生年金保険に加入義務がある「強制適用事業所」と、任意で厚生年金保険に加入できる「任意適用事業所」の2種類があります。
従業員が1人でもいる、株式会社などの法人は強制適用事業所です。これは事業主のみの場合も含みます。個人事業の場合は、従業員が常に5人以上いれば適用事業所※となります。
旅館、飲食店、農林漁業、サービス業など一部業態を除く。
強制適用事業所ではなくても、半数以上の労働者が厚生年金保険への加入に同意した場合、厚生年金保険への加入が可能です。これを任意適用事業所と言います。
強制適用事業所 | ・会社などの法人 ・従業員が常時5人以上いる個人事業所 (農林漁業、サービス業などを除く) |
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任意適用事業所 | ・強制適用事業所に該当しない事業所の 半数以上の労働者が厚生年金保険への加入に同意した場合 |
なお厚生年金保険は事業所単位での加入のため、加入に反対した従業員がいたとしても、事業が加入すれば従業員にも加入義務が発生します。
厚生年金の適用事業所になった場合の加入手続きは、以下の通りです。
提出期限 | 適用事業所としての事実発生から5日以内 新たな従業員の加入手続きも同様 |
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提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参のいずれか |
提出先 | 管轄する年金事務所 |
提出書類 | 新規適用届、 法人(商業)登記簿謄本、 事業主の世帯全員の住民票 (強制適用となる個人事業所の場合) |
採用に基づく従業員の加入手続きでは、従業員の健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届を提出します(健康保険への加入も同時に完了します)。
提出前に、基礎年金番号がわかる年金手帳を従業員から教えてもらわなければなりません。また加入する従業員に扶養家族がいる場合、被扶養者(異動)届が必要です。
2024年4月から変わることのひとつとして、日本国籍を有しない厚生年金の被保険者について、書類の提出様式が変更となっています。日本国籍以外の従業員を抱えている方は確認しましょう。
厚生年金保険への加入義務化対象企業には、押さえておきたい注意点があります。企業価値の低下やトラブルに発展させないためにも注意点を理解しておきましょう。
厚生年金保険料率は、給料の18.3%で固定されています。厚生年金保険料は、標準報酬月額に保険料率(18.3%)をかけた保険料を、企業と従業員の労使折半で負担します。
厚生年金保険料=標準報酬月額×厚生年金保険料率
そのため、資金に余裕がない中小企業は厚生年金の保険料負担が財務を圧迫してしまう可能性があります。任意加入の場合、今後の事業戦略や財政状況を踏まえた上で、慎重に検討しましょう。
任意加入とは、老齢年金を受けることができる加入期間(受給資格期間)を満たしていない人が70歳を過ぎても会社員として働く場合、受給資格期間を満たすまで任意で厚生年金に加入できる制度のことです。
厚生年金保険は老齢・死亡・障害という保険事故に対して給付されます。保険事故が発生した場合でも、企業・従業員側ともに保険料以外の金銭的な負担はありません。
適用事業所であるにもかかわらず、厚生年金に加入していない場合、厚生年金保険法102条で罰則が規定されています。
事業主が正当な理由もなく厚生年金に加入しなかった場合、6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金刑になる可能性があります。
強制適用事業所にもかかわらず、加入手続きをおこなっていない場合、年金機構から厚生年金加入に関する加入勧奨状や来所通知書が届きます。
通知書を確認次第、速やかに年金事務所に届け出ましょう。納付対象となる保険料は、適用事業所設置届を提出した月から適用されます。
厚生年金保険法では最大2年分まで遡及徴収ができます。
厚生年金適用外の条件である「2カ月以内の期間に定めて使用される労働者」を拡大解釈し、厚生年金保険料を納付しない事業主が指摘され、保険料を遡及徴収されるケースが増えています。
厚生年金保険への加入は、実態に基づいて判断されます。
労働者保護や労働人口の減少への対策として、社会保険(厚生年金保険・健康保険)の対象範囲および対象企業の範囲が拡大しています。
厚生年金保険への加入は企業側に金銭的な負担を強いる一方で、働き方改革や多様な人材の活用、人手不足への対策としても機能し、企業に長期的なメリットをもたらします。
今後、事業拡大や企業価値の向上を目指す場合、人事・労務担当者として厚生年金保険への加入条件や対象者・対象企業の適用範囲を確認しておきましょう。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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