一年間の所得税額を精算するために毎年おこなう年末調整。そんな年末調整は、育休(育児休業)中の従業員も対象となります。
では、収入が少ない育休中の従業員の年末調整はどのようにおこなうのでしょうか。また、育休中に支給される給付金や手当は年末調整の対象になるのでしょうか。
この記事ではそんな育休中の年末調整について、必要な理由ややり方、書類の書き方、育休中でも受けられる控除についてなどを解説します。
目次
育児休業とは、原則として子供が1歳に達するまで子供の養育を目的にした休暇です。仕事と子育ての両立を目的にしており、社会全体への育児休業への理解を深める役割を担っています。
保育園への入所ができない場合や、本人もしくは配偶者に何らかの問題(病気、離婚、死別等)があれば、2歳までの延長が可能です。
1歳6カ月まで、2歳までと2段階での延長申請となります。
産前産後休暇とは、母体保護の見地から認められる休業です。労働基準法では、出産予定日を基準として産前6週間と産後8週間の休業が必要と定められています(産後の8週間は労働基準法で就業することが認められていません)。
ただし、産休後6週間が経過し、本人の申請があり医師が就業に支障がないと認めれば就業することが可能です。産後の6週間は、たとえ本人が希望しても就業は認められません。違反した場合の罰則は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。
産後休業と育児休業の違い | |
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産後休業 | 育児休業 |
産前56日(8週間)まで 健康保険法の守備範囲 |
産後57日 雇用保険法の守備範囲 |
育児休業中の社員にも事業主が年末調整をおこないます。その際、社員から扶養控除等(異動)申告書を受け取ります。出産・育児を理由に退職した労働者には、確定申告を自身でおこなってもらう旨を伝えます。
年末調整とは、一年間の所得税額を精算するための手続きです。年末調整は日本において勤務している個人について基本的に企業が毎年おこなうもので、その年に支払った所得税が実際の税額に比べて多かった場合や少なかった場合の調整をおこないます。
給与明細を確認すると、所得税や住民税などが記載されています。しかし、その金額は実は通年での概算金額です。1年間で支払っていた概算の税金について年末に再度計算しなおすことを「年末調整」といいます。
年末調整を適切におこなうことで、過払い税の返金を受けることができるほか、不足分の税金を後払いする必要があります。
企業に属している場合は担当者がやってくれますが、個人事業主などの自営業者である場合は、年末調整はなく税金について自身で確定申告をする必要があります。
育休中でも年末調整が必要な理由は、育休中でも住宅ローン控除などの各種控除を受けることができるからです。正確な税額を計算するために、育休中の従業員も年末調整をおこなう必要があります。
企業の担当者は育休中の年末調整の必要性をよく理解しておき、年末調整で正しい税制対策をしてあげられるようにしましょう。
年末調整しないとどうなるかは、以下の記事を参考にしてみてください。
育児休業中でも年末調整に関わる控除が利用できるため、人事労務担当者として年末調整で可能な控除を知っておきましょう。
以下、育児休業中でも利用できる控除です。控除に関する内容は把握し、従業員には事前に伝えておきましょう。
控除 | 概要 |
住宅ローン控除 | 103万円以上の所得がある配偶者は控除が可能です。源泉徴収税額に負担する所得税の記載があれば、控除が可能です |
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生命保険料控除 | 生命保険に加入している場合、10月頃に発送される生命保険料控除証明書を提出することで、年収に応じた所得税・住民税の控除が可能です(その他、個人年金保険料、医療保険料も含む) |
地震保険料控除 | 生命保険料控除と同様、年収に応じた所得税・住民税の控除が可能です |
社会保険料控除 | 産休・育休ともに休業の「開始月」から「終了前月」までが社会保険料免除 |
配偶者控除 | 配偶者の年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であれば配偶者控除が受けられます |
配偶者特別控除 | 配偶者控除の対象外となった場合でも、配偶者の年収が一定範囲内であれば受けられる控除です。 |
近年、夫婦の収入合算による住宅ローンやペアローンを組んでいる方が増えています。分担割合の内訳において、育児休業中の本人の割合が多く、育児休業中に所得が下がった場合は住宅ローン控除の利用ができなくなります。
また、その住宅ローン控除を配偶者に移して適用することもできません。
上記で紹介した控除は、企業担当者が基本的には年末調整で対応してくれます。しかし、所得控除のなかには年末調整では申告できないものがあります。これは育児休業中にかかわらず全社員共通の事項です。
上記の所得控除を利用したいという場合は、自身で確定申告をしなければなりません。確定申告は年末調整時よりも数カ月先になるため、上記の所得控除を利用する場合は忘れないように覚えておきましょう。
育児休業中の年末調整について、企業担当者の目線で手順と書き方などを解説します。
企業は以下の必要書類を用意する必要があります。用意できたら対象の従業員へ配付します。
それぞれの記入方法について解説します。
まずは配偶者控除申告書について、氏名や会社名など記載項目に沿って記入していきます。
3については、本人が障害者である場合などに情報を記載します。5に関しては、16歳未満(詳しくは2008年(平成20年)1月2日以後に生まれた方) の扶養親族がいる場合は記載します。
基礎控除申請書も必要な氏名など記入します。4の所得金額調整控除申告書については、該当する要件にチェックをします。
その他収入など記載する範囲は、国税庁の公式Webサイトをご覧になってください。
生命保険料や介護保険料などの控除について記載します。ほかにも地震保険料などについてもこの書類に記載して控除を受けます。計算方法などは国税庁の公式Webサイトを参考にしましょう。
住宅借入金等特別控除申告書とは、つまり住宅ローン控除のことを指します。細かな計算については「年末調整で住宅借入金等特別控除を受ける方へ(PDF/2,138KB)」を参照してください。
また、災害によって居住ができないなどの場合は別途、災害の起こった日時などを記載します。
年末調整のための書類は渡ったら、今度は対象従業員が記入をする番です。上記必要書類に加え、利用したい各種控除について添付する書類などを国税庁の公式Webサイトよりダウンロードして記入しましょう。
諸々の記入が終われば、必要書類と添付書類あわせて企業へ提出しまししょう。企業は、この後に再計算などするためスケジュール管理はしっかりしておきましょう。
対象従業員から必要書類と添付書類を受け取ったら、所得税の再計算などをおこない翌年の1月1日までに税務署へ報告などをしましょう。
従業員の方は、遅れると自身で翌年に確定申告をすることになるため年末調整時はスムーズに対応できると良いです。
育児休業中は失業保険含め、さまざまな手当てが用意されています。
産休・育児休業中にもらえる給付金には、出産育児一時金や出産手当金、育児休業給付金があります。
給付金・手当 | 詳細 |
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出産育児一時金 | 妊娠4カ月(85日)以上の方が出産したときは、一児につき42万円が支給される給付金です 産前産後休業中に貰える給付金です |
出産手当金 | 出産日(出産が予定日より後になった場合は、出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休み給与の支払いがなかった期間を対象として支給される給付金です 産前産後休業中に貰える給付金です |
育児休業給付金 | 1歳未満の子供を養育する必要のある者が育児休業を取得したときに、要件を満たせば受け取れる支給金です |
これらの給付金や手当は所得に該当しないため、税金はかかりません。そのため年末調整の手続きには当てはまらず、1月~12月の期間内にこの手当のみしか収入がない場合、申告は不要です。
従業員が育児休業を取得後に会社を退職した場合、失業保険の受給が可能です。育児休業中は会社に在籍し、雇用保険の被保険者になっています。そのため、失業保険の受給対象者となります。一方で以下のケースも考えられます。
・所得が減っているため、支給される金額が減る可能性がある
・退職して育児に専念する場合、失業保険が支給されない可能性がある
失業保険は就職の意思があるものの就職できないときに支給されるという趣旨であるため
自己都合による離職の場合は3カ月間の待期期間があり、支給中はハローワークの担当者と定期的な面談が必要です。失業保険の支給は退職日からではなく、手続きの完了日からとなります。なお失業保険による支給は、所得に含まれません。
育休中の年末調整において、いくつか注意点があるため解説します。
年末調整は、従業員分の必要書類の確認と所得税の計算をします。育休している従業員だけではないため毎年かなりの作業になるでしょう。そのため、書類の提出期限には注意してもらう必要があります。
育休中であれば、出社しているわけではないためコンタクトも取りづらいでしょう。できるだけスムーズに必要書類などを揃えてもらえるように促してあげることが大切です。
育休中で全く収入がない場合でも、必要書類などを提出することで年末調整を受けることができます。
収入がなくても、各種控除や配偶者に課税所得がある場合などを考えれば年末調整をする方も多いでしょう。その場合は源泉徴収票を企業は発行します。給与所得なし・源泉徴収税なしとして発行されます。
年末調整期間に「子供が生まれた」と連絡があった場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
控除対象扶養親族とは、扶養親族のうちその年の12月31日現在で16歳以上である場合に限られるため、もし年末調整期間に子供が増えたとしても対象にはなりません。
年末調整の還付は、一般的に12月の給料日となります。事業主側が手続き期間中に書類が揃わず年末調整が間に合わない場合、過去5年分までであれば確定申告で還付申告が可能です。
育児休業は原則、子供が1歳に達するまで子供の養育を目的にした休暇です。育児休業を取得している労働者がいる場合、異なる労務手続きをおこなわなければなりません。
近年、税制改革や労働者保護を目的にした働き方改革関連法案の施行が続いているため、法改正における迅速な対応が必要です。また、育児休業を希望する従業員がいる場合はその都度、対応が必要です。
被保険者の申告が必要な手当もあるため、事前に育児休業に関しての情報を周知しましょう。スムーズな対応ができるよう、内容を把握しておくことに加え、気軽に質問ができる専門家を手配しておくことをおすすめします。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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