給与明細作成の6ステップ
- 労働時間の集計
- 課税支給額の計算
- 各種手当の計算
- 控除額(健康保険料、雇用保険料、厚生年金保険料)の計算
- 源泉所得税の計算
- 控除額の差し引き
給与明細の発行は、人事・労務担当者の定型業務です。高い専門性が必要な上、各項目の正確な計算や税制改正による変更手続きも必要となります。
今回は、人事・労務担当者が知っておきたい給与明細の記載項目や作成方法、計算方法などの基本知識からWeb給与明細の魅力を解説します。また、給与明細書の無料テンプレートも紹介するのでぜひ参考にしてください。
目次
給与明細とは、給与の支給額や控除額を記載した通知書です。給与明細には給与計算の根拠が示されていますが、労働基準法では、給与明細の発行は義務ではありません。
これに対して、所得税法第231条では、給与支払明細書の交付が義務づけられています。また、健康保険法第167条第3項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律第32条第1項で、控除額の通知が義務となっています。つまり法律上、企業は給与明細を発行・通知する義務があります。
事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、前条第一項又は第二項の規定による被保険者の負担すべき額に相当する額を当該被保険者に支払う賃金から控除することができる。この場合において、事業主は、労働保険料控除に関する計算書を作成し、その控除額を当該被保険者に知らせなければならない。
給与明細の保管義務はありませんが、給与計算の根拠となる情報が記載された書類(法定3帳簿)は保管義務があります。保管義務や保管期間に関して詳しくはこちらの記事で解説しています。
保管義務がある給与明細関連の書類 | |
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3年間の保管義務 | |
7年間の保管義務 |
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従業員の入退社のための手続きが多く、従業員数が多い企業は、雇用形態も幅広いため重要書類の一元管理がおすすめです。書類やデータの紛失・破損を防ぐ労務管理システムを検討しましょう。おすすめの労務管理システムについては以下の記事で紹介しています。
給与明細は、以下2種類の交付方法があります。
紙ベースで給与明細を交付している場合、明細書を紛失してしまうと再発行の手続きで手間がかかります。電子データの交付であれば、一度データ保存しておくことで、過去の給与明細も再度出力できるため便利です。
給与明細書は、毎月勤務先から発行されます。所得税法第231条により、事業主は労働者に対して給与の支払い明細書を交付することが義務づけられているためです。
給与明細を発行しない場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。給与明細を滞りなく発行できるよう、手続きの自動化などをしておく必要があります。
給与明細には、以下の3つの項目を記載します。
支給項目に示した総支給額から控除項目の合計額を差し引いた金額が、その月の口座振込額、従業員の手取りの給与額となります。
給与明細に記載する項目 | |
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勤怠項目 | 給与明細の勤怠項目には、出勤日数・欠勤日数・労働時間・残業時間や有給休暇取得日数・有休残日数などを明記します |
支給項目 | 給与明細の支給項目には、基本給・時間外手当(残業手当)・通勤手当・住宅手当・家族手当など各種手当の金額を明記します |
控除項目 | 給与明細の控除項目には、給与から徴収した所得税や住民税などの税金、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料などの控除額を明記します |
控除項目には、労働組合費や積立金、食事代、財形貯蓄、親睦会費も含むことができます。上記3項目の詳しい見方を、後述の見出しで詳しく解説します。
勤怠項目には、以下のような給与の支払いに関係する労働時間・日数が記載されています。
出勤日数 | 当月の出勤した日数 |
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労働時間 | 当月の労働に従事した時間 |
欠勤日数 | 当月の欠勤した日数 |
有休取得日数 | 当月の有休を取得した日数 |
有休残日数 | 当月の締日時点における有休の残日数 |
残業時間 | 所定労働時間や法定労働時間を超えて労働した時間 |
深夜残業時間 | 午後10時〜午前5時の間に労働した時間 |
休日労働時間 | 法定休日に労働した時間 |
遅刻早退時間 | 遅刻・早退したことにより、労働できなかった時間 |
有休残日数は、勤怠項目の締日時点での残日数であるため、注意が必要です。
支給項目は会社から支払われる給与が記載されており、具体的には以下の項目が挙げられます。
月給(基本給) | 年齢や階級に応じて設定された毎月固定で支払われる給料 |
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各種手当 | 残業代・役職手当・住宅手当など |
各種手当としてよく利用される項目には、以下のものがあります。
残業手当 | 所定労働時間を超えて労働した分の賃金 |
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通勤手当 | 通勤時に利用する公共交通機関の料金や自動車のガソリン代に対する手当 |
役職手当 | 役職に応じて付与される手当 |
資格手当 | 会社が指定する資格を取得した場合にもらえる手当、もしくは資格取得に要する費用の補助 |
家族手当 | 配偶者や子供との生活費・教育費などを補填する手当 |
住宅手当 | 家賃や住宅ローンの補填を目的に付与する手当 |
控除項目とは、給与から差し引かれる保険料や税金が記載されており、具体的には以下の項目が挙げられます。
雇用保険料 | 労働者の失業時に生活保障として利用できる雇用保険の保険料 |
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社会保険料 | 健康保険・厚生年金保険・介護保険などの保険料 |
所得税 | その年の所得に応じて納付する国税 |
住民税 | 前年の収入に対して、住民票のある市町村区・都道府県に納める税金 |
健康保険の保険料は、全国健康保険協会が公表する保険料額表で確認できます。また、厚生年金保険料は日本年金機構が公表する保険料額表で確認可能です。
雇用保険料は、厚生労働省が公表する雇用保険料率をもとに算出され、毎年保険料率は変更されています。
給与明細は6つの手順に沿って、集計・計算をおこないます。
給与明細作成の6ステップ
給与明細の各項目の作成方法 | |
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(1)労働時間の集計 | 出退勤を記録したタイムカード・勤務表から、1カ月分の労働時間を集計 勤務日数・欠勤日数・有休取得日数・有休残日数も集計します |
(2)課税支給額の計算 | 基本給に、時間外労働手当を加算、欠勤・遅刻・早退を差し引く 基本給と諸手当の合計が課税支給額となります |
(3)各種手当の計算 | 住宅手当、通勤手当、役職手当、皆勤手当、家族手当、扶養手当、 単身赴任手当、勤務地手当、出張手当が該当 課税支給額とは別で計算 通勤手当には定期代や切符代が該当します |
(4)控除額の計算 | 控除対象は健康保険、介護保険、厚生年金保険などの社会保険、雇用保険、 所得税、住民税、そのほか会社ごとの控除が対象 社会保険料はそれぞれの保険料率で計算します |
(5)源泉所得税の計算 | 国税庁の源泉徴収税額表から所得税を算出 1社勤務、複数会社勤務ともに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している会社は甲、 そうでない会社では乙の欄を確認します |
(6)控除額の差し引き | 課税支給額から控除額を差し引き、手取り支給額を確定 |
弊サイトでは、給与明細書の無料テンプレートを公開しています。
勤怠欄・支給欄・控除欄を各ボックスにし、勤怠・支給項目・控除項目が分かれているのでシンプルで見やすいデザインです。空欄部分には、独自の支給項目や控除項目を設定できます。
合計金額の自動計算もできるので、業種問わず利用できます。下記からダウンロードの上、ご自由にご活用ください。
給与明細の作成には、WEB給与システム・アプリの活用がおすすめです。近年、給与明細書の発行はWEB給与システム・アプリを活用し、紙からWEBで発行する企業が増えています。最新のWeb給与システムのおすすめはこちらの記事をご覧ください。
所得税法には「交付を受ける従業員が承諾すれば明細の電子化は可能なものの、書面での交付請求があれば応じなければならない」と規定されており、いつでも印刷できる状態(電子化)であれば、給与明細をWEB上で発行できます。
ペーパーレス化(給与明細の電子化)により、印刷代や郵送代、発行業務の人件費を削減できます。特に社員数が多い企業や全国に支店を有する企業は高いコスト削減効果を得られます。
また、税制改正による税率変更にも自動対応でき、Excelファイルを使った計算による人的ミスを防ぎ、間違いを起こしません。
紙面による給与明細は紛失リスクも高く、個人情報保護の観点からWEB給与システム・アプリはセキュリティ強化にも効果があります。紛失による再発行や、過去分の明細書の確認作業といったアフターフォローが必要なくなるため、給与明細の管理・運用に必要な労力を短縮できます。
一方で、WEB給与システム・アプリを導入する際は従業員への周知が必要です。
人事・労務担当者や従業員にとって、使いやすく、確実に利用できるWEB給与システム・アプリを選びましょう。
(給与等、退職手当等または公的年金等の支払明細書)
第二百三十一条 居住者に対し国内において給与等、退職手当等または公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等または公的年金等の金額そのほか必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。
アルバイトを雇用している場合は、忘れずに給与明細書を交付しましょう。
労働保険の保険料の徴収や控除額の通知が企業の義務となっているため、事実上、給与明細の発行は義務となります。
一方で、従業員数が多い、雇用形態が幅広く、人材の入れ替わりが激しい企業はWeb給与明細に移行することで、人的ミスの防止やコスト削減・業務効率化が可能です。ペーパーレス化による職場環境の改善は、テレワークをはじめとした従業員のワークライフバランスの実現にもつながります。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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