この記事でわかること・結論
- 給与明細の控除項目や各計算方法
- マイナス控除が発生するケース
- 控除に関する法改正に自動対応する方法
この記事でわかること・結論
毎月の給与は、総支給額から住民税や所得税、健康保険などの社会保険料を控除し、手取り額を計算します。差し引いた控除項目や控除金額については、給与明細に記載しなくてはなりません。
また、控除の種類によっては企業側の負担率が異なり、控除の税率は年によって変更される可能性があります。そこで今回は、給与明細の控除項目の内容や計算方法を解説。気になるマイナス控除についてもまとめています。
目次
一般的な給与明細は、支給額と控除額に分けて記載します。差し引かれる主な控除項目は、法定控除とその他の控除(法定外控除、協定控除)です。
法定控除
協定控除
社会保険は、従業員やその家族が病気やケガをして医療機関にかかったときに、治療や投薬にかかる医療費の負担を軽減してくれる保険です。
病気やケガにより休業した際に支給される傷病手当金、出産した際に支給される出産育児一時金などの給付金も用意されています。保険料は企業と従業員が折半で負担します。健康保険は企業規模や勤務形態により、
などに分けられます。一般的な中小企業では全国健康保険協会に加入している企業が多いため、本記事では全国健康保険協会をもとに解説します。
まず社会保険料の計算方法は、以下のとおりです。
社会保険料=標準報酬月額×健康保険料率÷2
標準報酬月額とは受け取った報酬の平均的な給与月額を指し、年に一度定時決定し、固定給が大きく増減しない限りは、その後1年間保険料の計算の際に使用します。通勤代や時間外労働の賃金(残業代)も含まれており、5万8000円から139万円まで50等級に分類されます。
健康保険料率は毎年改定されるため、最新の保険料率を確認する必要があります。また、全国健康保険協会の「都道府県毎の保険料額表」の標準報酬月額に当てはめる方法で、健康保険料を算出することも可能です。
健康保険料=30万円×9.87%÷2=14,805円
なお法人事業所または常時5人以上を雇用する個人事業所では強制適用となるため、適用となる従業員を雇用している場合は、社会保険に加入させなくてはなりません。
パート・アルバイトであっても、1日または1週間の労働時間および1カ月の所定労働日数が、通常の従業員の4分の3以上あれば、加入させる義務があります。
介護保険は、原則として40歳以上の従業員に加入を義務付ける医療保険です。40歳から64歳の間は介護保険第2号被保険者にあたり、一般保険料に介護保険料を上乗せして天引きします。
保険料は健康保険料同様、企業と従業員が折半で負担します。介護保険料は、以下の計算式で求めます。
全国健康保険協会の介護保険料率は全国一律となっており、令和5年3月分からは1.82%とされています(毎年改定されるため、全国健康保険協会への確認が必要です)。
介護保険料=30万円×1.79%÷2=2,685円
健康保険に上乗せする場合は、全国健康保険協会の保険料額表「介護保険第2号被保険者に該当する場合」に当てはめると、健康保険料14,805円に2,685円を上乗せした17,490円の金額を控除できます。
65歳以上(第1号被保険者)の場合、勤務している従業員であっても居住地の市区町村に本人が保険料を納めます。
厚生年金保険とは、従業員の定年退職後の生活保障を目的とする老齢年金(公的年金)や、従業員が死亡した場合に支給される遺族年金、現役中に障害を負った場合の障害年金など、従業員や家族の生活を保証するための保険です。保険料は企業と従業員が折半で負担します。
厚生年金保険は31の等級に分けられており、等級で厚生年金保険料が変わります。厚生年金保険料率は毎年改定されていましたが、平成29年9月より厚生年金基金加入員を除く一般・坑内員・船員すべての被保険者に対して、料率が18.3%で固定されています。
厚生年金保険料は、以下の計算式で求めます。
厚生年金保険料=30万円×18.3%÷2=27,450円
また、全国健康保険協会の保険料額表に記載されている厚生年金保険料に当てはめると同様の金額になります。
雇用保険は従業員の失業に備えて加入する保険で、労災保険(労働者災害補償保険)と総称して労働保険と呼ばれています。雇用の安定や就職促進を目的にした失業等給付や教育訓練給付などが支給されます。
労災保険料は企業が全負担する義務があるため、給与明細の控除項目には含まれません。
雇用保険料に関しては企業と従業員双方で負担します。ただし、健康保険料と異なり、企業の負担割合が高い。
雇用保険料は、厚生労働省が公開している「雇用保険料率表」を参考に計算します。
雇用保険料率は年度によって改定される場合があるため、必ず最新の料率を確認ください。
週の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上継続して雇用される見込みがあれば雇用保険が適用されるため、パートやアルバイトでも該当する場合があります。
所得税は、従業員の1年間すべての所得に対して課税されます。従業員の給与から所得税を差し引きし、従業員の代わりに税務署に納付する源泉徴収が企業側には義務付けられています。
ただし、最終的な所得税額は1年間の所得により変動するため、毎月給与から控除する所得税はあくまで見込みの金額となります。
源泉徴収した所得税は12月の年末調整で精算し、実際の金額より多く納付していた場合は従業員に還付されます。
所得税の源泉徴収は、国税庁が毎年公開している「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて、計算します。
【引用】国税庁 給与所得の源泉徴収税額表
[扶養控除等申告書を提出している場合]
扶養親族等の数が0人:3,620円
扶養親族等の数が1人:2,000円
扶養親族等の数が2人:390円
[扶養控除等申告書を提出していない場合]
11,400円
給与から源泉徴収をおこなう場合、2013年から2037年までは、東日本大震災の復興財源目的の復興特別所得税を同時に徴収しなくてはなりません。復興所得税率は所得税額の2.1%で、給与や賞与、報酬なども課税対象となります。
国税庁の源泉徴収税額表では、所得税と復興特別所得税を併せた源泉徴収となっています。
住民税は、1月1日時点で従業員の住民票がある自治体に納める税金、市区町村民税と都道府県民税を合わせた総称です。前年度の1月から12月の所得額に応じて課税され、翌年の6月から12カ月に分割して徴収します。
所得税は当年度の所得額をもとに計算して当年に納付するのに対し、住民税は前年度の所得を基に算出され、当年に納付します。
住民税の徴収方法
一般的には、企業側が住民税を従業員の給料から差し引き、代わりに納付する特別徴収をおこないます。普通徴収とは異なり、毎月給与から差し引きします。
正社員に限らず、パート・アルバイト・役員含め、すべての従業員が住民税の特別徴収の対象となります。
従業員の住民税の計算は、基本的に企業側がおこなう必要はありません。地方自治体が給与支払報告書を元に住民税の納付額を計算し、企業に納付書を送ります。
特別徴収事務の主な流れ
新年度の6月は端数調整されており、毎月の徴収額と相違していることがあるため、注意が必要です。
法定控除以外の控除である協定控除とは、企業ごとで定められた控除項目です。
名称や内容は企業ごとに異なりますが、法定控除以外の項目を控除するためには、労使間で給与控除に関する労使協定を結ぶ必要があります。労使協定を締結していなければ、企業側が勝手に差し引くことはできません。
通常、控除項目は支給額から差し引きますが、給与の計算ミスや年末調整で還付があった場合、返金をおこなうためのマイナス控除をおこないます。
健康保険や所得税などの計算ミスにより、従業員の給与から通常より多く控除した場合は、マイナス控除をおこないます。
翌月の給与で2,000円分マイナスの値を入れるなどの対応をおこないます。通常8,000円の所得税が6,000円になり、翌月の手取り額は2,000円増えます。
ただし、翌月精算は「賃金支払の五原則」のひとつである「全額払の原則」に違反することになるため、給与計算のミスが発覚した時点ですぐに従業員に事情を説明し、その月のうちに過不足金として精算しましょう。
ただし、労使協定で「給与計算のミスがあった場合は翌月調整」などの文言を入れている場合や、従業員本人と話し合い同意を得られた場合は、翌月精算も可能です。
年末調整では所得税が還付されることも多く、そのほかの控除合計よりも還付額が大きいと総控除が「マイナス」となり、従業員に還付金が支給されます。
給与明細業務の中でもっとも多いトラブルは、計算間違いによるトラブルです。
想定
トラブル
・数年分の一括請求
・追徴課税などのペナルティ
・税務署による税務調査
・労働基準監督署による立ち入り調査
・従業員からの問い合わせ対応
対処法
・従業員への説明と謝罪
・給与明細を作り直し過不足を精算
・税金や保険料の追徴や訂正申請
・人為ミス防止のための給与明細システムの導入
給与明細の控除項目に関するトラブルにもしっかり備えましょう。
給与計算では、料率を計算するデータの参照先が異なるため、それぞれの控除項目に該当する料率表を入手しなくてはなりません。
給与明細の控除計算ポイント
社会保険料や所得税などの控除項目は定期的に税率の改定がおこなわれるため、最新情報の確認が必要です。控除を含む給与計算でトラブルを未然に防ぐためにも、給与明細システムの導入がおすすめです。
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