この記事でわかること・結論
- 給与計算とは
- 給与計算のやり方
- 給与計算時の注意点
- 給与計算を効率化する方法
この記事でわかること・結論
毎月定例の業務である給与計算は、細かい計算に加えて、毎年のように変わる税制度や社会保険制度への改正など、気を抜けない業務です。従業員からみると、給料は会社での最大の感心事のひとつでもあります。
本記事では、単純なミスでもトラブルになる可能性がある給与計算について、初心者にもわかりやすく説明します。
目次
給与計算とは、従業員ごとの勤怠情報や控除などを整理して、会社が毎月振り込む給与を計算する業務のことをさします。給料を計算するとともに社会保険料や所得税・住民税なども付随して計算します。
年末には給与から源泉徴収していた所得税が、実際に納めるべき税額と合っているかの確認作業として「年末調整」などもおこないます。つまり、給与計算業務とは従業員のお金周りを整理するような業務とも言える大切なフローです。
実際の計算方法なども最重要項目ですが、まずは給与計算をする上で覚えておきたい基礎知識を紹介します。
会社は従業員に対して、さまざまな金銭的支給をすることがあります。給与計算をする前にそもそも「給与」とはどのようなものを指すのでしょうか。
給与とは、会社などの事業主側から従業員へ「労働への対価」として支払われる金額のことを言います。法律では賃金と呼ばれ、事業者側の賃金支払い義務は労働基準法第11条において決められています。
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
また、給与として含まれるものに関しては所得税法第28条にて「給与所得」という名称で記載があります。
給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
上記法令より、給与として扱われるのは以下のようなものが該当します。つまり、会社から支給されるお金はすべて給与という扱いになります。
毎月の固定給にくわえ、交通費や資格を取った際にもらえるインセンティブなども給与としてカウントされます。それぞれもう少し詳しく見ていきましょう。
基本給とは、賞与などを含まない一定金額ベースの賃金のことを指します。雇用契約書などで各従業員に決められた固定金額が基本給です。しかし、実際に振り込まれるのは、基本給から税金が源泉徴収され、各種保険料が差し引かれたあとの金額です。
基本給は、主に以下のような3つの決め方があります。
属人給は、いわゆる「年功序列」的な考え方のもと決めるものです。勤続年数や年齢などを考慮して基本給が決められます。業務の成果や責任などは反映されず、継続勤務していれば一定の昇給などが約束されているような決め方となります。
仕事給は、「成果型」で決めるやり方です。完全に各個人の仕事内容やそこで得られた成果などから見て基本給に反映します。この決め方を採用している会社であれば、経験豊富な若手社員でも高給で働くことが可能です。
総合型は、上記2つのどちらも考慮して基本給に反映するバランスの良い決め方です。勤務年数などにくわえて、日々の業務能力を判断します。ほとんどの会社で採用されているスタンダードな決め方が総合型です。
会社によってどの基本給の決め方を採用しているかは異なります。給与計算担当者は、自社の方針などよく確認しておきましょう。
給与には基本給にプラスして、会社が負担している各種手当なども含まれます。会社が従業員ごとに用意する各種手当には豊富な種類があるため、それぞれ把握しておくと給与計算の際に役立つでしょう。
上記のような各種手当は、必ずしもすべてが用意されているというわけではなく、会社の方針によって異なります。就業規則などで詳しく決められていることが一般的です。自社の手当について確認しておきたい場合は就業規則を読みましょう。
この臨時報酬などはいわゆる「ボーナス」や「インセンティブ」とも呼ばれます。法律での規定が特にないため、会社によって細かい金額設定などが異なります。
多くの会社では「年2回、基本給の○カ月分の支給」などのようなケースがよく見られます。ほかにも、各従業員の業績や個人売上などに応じて支給額を設定するような会社もあります。
基本的には給与は金銭で支給されるものです。しかし、場合によっては食事の現物支給など金銭以外での物や権利などが支給されることがあります。そういったものは、現物給与として給与に換算します。
社内イベントなどが主に該当することが多いため、給与計算をする際は現物給与がないかどうかも細かくチェックしましょう。
給与は基本給や各種手当、臨時ボーナスなどを含めた総額のことを指します。ですが実際に従業員へ支給する金額はそこからさらに「控除」された額となります。
給与計算では、
などが主に控除されて実際の支給額、従業員へ振り込まれる額が決まります。給与明細書などを確認すると、どの項目がどのくらい差し引かれているかなどが見られます。
課税支給額とは、支給金額のなかでも所得税などが適用される範囲のことを指します。基本給をはじめ、特定の手当(残業手当など)が対象となります。
そして、非課税支給額は支給金額のなかでも税金の適用外である範囲のことです。各種手当のうち特定のもの(通勤手当など)が該当します。
次のような手当は非課税となります。
(1) 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
(2) 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
(3) 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの
事業主側は、各種手当を設定することができるため従業員の税金面を考慮して決めると良いでしょう。給与計算担当者であれば、この課税支給額と非課税支給額はおさえておきたいポイントです。
給与計算は、
といわれます。特に初心者はなじみが浅く、複雑である印象をもつことが多いでしょう。給与計算としておこなう業務の範囲は下記が一般的ですが、会社によって範囲が異なります。
給与計算事務が「難しい」「初心者には難解」といわれる理由は、次のとおりです。
給与事務が難しいといわれる理由
いずれも税金と社会保険の分野における複雑さと、各制度への理解が大変であることが理由となっており、特に初心者や業務経験が少ない人にとっては「難しい」と感じることが多いようです。
給与計算はどの職場でも必要な業務であると同時に、資格不要で従事できます。毎月決まった時期に、定型的な作業をおこなう業務です。
専門用語が多いなどの課題はありますが、一度慣れるとスムーズに業務がおこなえます。給与計算をはじめておこなう初心者でも、ポイントを押さえることで早く覚えられるでしょう。
給与計算の流れについて、一般的な月給制を例として確認します。給与計算の流れは次のとおりです。
まずは総支給額の算出を、以下の手順でおこないます。
タイムカードや勤怠管理システムの情報をもとに、従業員ごとに勤務時間を集計します。下記のポイントに沿って勤怠情報を把握しましょう。
勤怠情報を把握する際のポイント
勤怠情報を把握したあとは、各種割増賃金を算出します。割増賃金および1時間あたりの賃金は、以下の計算式で算出できます。
計算式 | |
---|---|
割増賃金 | 時間外労働時間× 1時間あたりの賃金×割増率 |
1時間あたりの 賃金 |
月給÷ 1カ月の平均所定労働時間 |
割増賃金率は業務の時間帯などにより異なるため、以下の表を参考に該当する割増賃金率を用いて計算しましょう。
残業の種類 | 定義 | 割増率 |
---|---|---|
法定時間内残業 | 会社の就業規則などで規定された所定労働時間を超えたものの、法定労働時間※の範囲内の労働時間 | 0% |
法定時間外労働 | 法定労働時間※を超えて働いた時間 | 25%以上 |
1カ月で60時間を超えた時間外労働 | 50%以上 | |
深夜残業 | 午後10時から午前5時までの時間外労働 | 25%以上 |
法定休日労働 | 法定休日(週1日)の労働時 | 35%以上 |
法定労働時間は1日8時間、週40時間
会社が支給する手当のうち、所得税や住民税が非課税にならない手当を加算します。下記のポイントに沿って各種手当を確認しましょう。
各種手当を確認する際のポイント
控除額とは、給与支給時に会社が天引きする金額です。会社が天引きする税金と社会保険料には以下があります。
税金 | ・所得税 ・住民税 |
---|---|
社会保険料 | ・健康保険料 ・厚生年金保険料 ・介護保険料 ・雇用保険料 |
まず、健康保険料など各種社会保険料を計算しましょう。それぞれの社会保険料の計算方法は下記のとおりです。
標準報酬月額×保険料率÷2
毎月20日頃に日本年金機構から会社に送付される「保険料納入告知額通知書」または「保険料納入告知書」に記載された金額を天引きします。
保険料の計算においては、標準報酬月額が基準となります。毎年7月に標準報酬月額を決定し、あらたな保険料を9月から8月に納付。
健康保険・厚生年金保険の計算に使われる標準報酬月額については「標準報酬月額とは?」の記事で詳しく解説しているため、気になる方はぜひチェックしてください。厚生年金保険料の計算方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
標準報酬月額×保険料率÷2
40歳以上の従業員は介護保険料の納付が発生します。従業員負担額である介護保険料の半額を、給与支給額から天引きします。
当月の給与支給額×保険料率
従業員負担分のみを給与支給時に天引きし、会社負担分とあわせて納付します。雇用保険料は毎月天引きしますが、実際に会社が納付するのは6月1日〜7月10日の間のみ。雇用保険は毎年保険料が変わるため、よく確認しましょう。
住民税は給与支給時に会社が天引きし、都道府県への税金と市区町村への税金をまとめて、市区町村に支払います。
住民税の金額は毎年変更され、毎年5月末日までに会社へ通知された金額にもとづいて、翌月6月の給与支給分から天引きする金額を変更します。なお、賞与については住民税がかからないことに注意しましょう。
毎年1月から12月までの所得の年額に対応した所得税を天引きします。所得税額の確認は「給与所得の源泉徴収税額票」を用います。具体的な手続きについては、最新の公式情報を確認しましょう。
所得税額は、下記の計算式で算出することが可能です。
所得税=課税所得額×所得税率―控除額
課税所得額は、以下の式で算出します。
課税所得額=総支給額ー非課税支給額ー所得控除額
源泉徴収税額表は毎年変わります。また、源泉徴収の計算のための控除額なども変わるため、税制度改正にあわせた計算が必要です。
総支給額から税金などの控除額を差し引いた金額が従業員へ支払う金額です。こちらは「手取り」と呼ばれます。社内預金の積立や従業員への貸付金の返済を天引きでおこなう場合は、差引支給額から控除して支給します。
給与計算前におさえておきたいポイントとして、以下の4つが挙げられます。
給与の支払いは労働基準法によってルールが定められており、ルールにしたがって支払う必要があります。具体的には、以下5つのルールが定められています。
上記のルール通り給与を支払えているか、いま一度確認しておきましょう。
給与の支払い時は、社会保険の加入条件も確認しておきましょう。たとえば、2024年10月より社会保険の「対象となる企業」の適用範囲が拡大されます。
以下に該当する従業員(パートタイム・アルバイトを含む)は、2024年10月より社会保険に加入しなければいけません。
2024年10月以降の 社会保険の適用範囲 |
|
---|---|
対象となる企業 | 従業員数51名以上の会社 |
週の 所定労働時間 |
20時間以上 |
見込み雇用期間 | 2カ月以上 |
賃金月額 | 88,000円以上 (年収106万円以上) |
その他 | 学生ではない |
ほかにも健康保険料率は定期的に改訂されます。社会保険に関する情報は、定期的に厚生労働省のWebサイトで確認しておきましょう。
正しく給与計算をおこない支払うためには、従業員の労働時間や人事情報を正確に記録しておくなど管理を徹底することが大切です。特に給与計算に関わる以下の項目は、常に最新の情報にアップデートしておきましょう。
全国に支店がある企業の場合、各都道府県で給与の支払いに関するルールが変わるため、そのルールにしたがって支払う必要があります。特に最低賃金に関しては、地域によって異なる金額が定められています。
最低賃金は毎年改訂されるため、厚生労働省のWebサイトで確認しておきましょう。
給与計算時の注意点として、以下の2つが挙げられます。
給与計算においてミスをしてしまったときの対処法については、下記の記事を参考にしてみてください。
給与計算時は、情報漏洩に注意しましょう。給与計算で利用する情報には、マイナンバーなど従業員の個人情報も数多く含まれます。
上記以外にも、個人情報を流出させた企業として社会的な信用を失うため、情報管理には十分な注意が必要です。
給与計算時は、計算ミスがないよう作業することが大切です。給与計算をミスしてしまうと、正しい給料を支払えず従業員からの信頼を失ってしまいます。
また、給与計算にミスが生じると、給与をもとにして計算される社会保険料や所得税も正確に納付できません。所得税を正しく納税できなければ、追徴課税など罰則を受ける可能性もあります。
計算間違いや転記ミスが起こらないようにするには、
するなど正しく給与を支払える体制を整えましょう。
ただし、最新の税制度などの改正に対応しているかどうか、事前に確認しておくことが必要です。もし常に最新の法改正に対応したツールを使用したい場合は「給与計算システム」の導入がおすすめです。
給与計算業務は大切なバックオフィス業務のひとつですが、次のとおり多くの労力が必要です。
給与計算業務が大変なポイント
給与計算業務の負担を軽くするためには、給与計算システムの導入が効果的です。給与計算システムを利用することで、給与計算・管理業務を効率化でき、計算ミスを防ぐことができます。
給与計算システムのなかには人事管理機能が搭載されているタイプもあり、給与計算時に必要な従業員データの管理・収集も容易におこなえます。
また、毎年のように改正される税制・社会保険制度へ適切に対応するためには、システム更新費用の負担が少ないクラウド型のシステムの導入がおすすめです。
今後、政府の方針として税金や社会保険手続きを電子化すると示されていることに加えて、パートタイムやアルバイトなどへの社会保険の適用範囲の拡大も予定されています。
業務が複雑化するとともに電子化がすすむ給与計算業務は、電子化で対応することで、自社における給与計算・年末調整などにかかる業務時間を削減ができます。
自社の勤怠管理や給与計算の業務をクラウド化して、バックオフィス業務の効率化を検討してはいかがでしょうか。おすすめの給与計算システムについては、以下の記事で紹介しています。
給与計算は気をつかう業務であると同時に、毎年改正される税制度や社会保険制度に適切に対応することが必要です。
また、勤怠管理などと密接につながる業務であり、紙による管理では限界があります。給与計算や勤怠管理をクラウド化することでバックオフィス業務を効率化ができ、今後の税制度と社会保険制度についての電子化にも対応できます。
自社でのバックオフィス業務を見直すとともに効率化を図ってはいかがでしょうか。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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