この記事でわかること
- 育児休業給付金の支給額は、休業前の手取り収入の実質8割
- 2025年4月から、育休を14日以上取得した夫婦は最大28日間、育児休業給付金が手取り収入の実質10割に
- 同じ時期から、育休後に2歳未満の子どもを育てるために時短勤務をする場合は賃金の1割が支給される
この記事でわかること
育児休業中には、育児休業給付金が受け取れます。対象となる従業員が育児休業給付金の受給を請求した場合、事業主は必ず対応しなければなりません。
そこでこの記事では、育児休業給付金が受け取れる条件や給付金の計算方法、申請方法を紹介します。また、2025年4月から開始が予定されている育児休業給付金の賃金80%への引き上げ(実質10割給付)についても解説していきます。
育児休業給付金が1カ月あたりいくら支給されるかわかる計算ツールもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
育児休業給付金とは、出産と子育てにより発生する育児休業期間中に対象者へ支給される手当です。育児休業中は勤務できず、一般的に育休中の給料はありません。そこで収入がない期間も生活に困らないように、条件に当てはまる場合に一定額の給付金が支給されます。
育児休業給付金は、育児休暇中の男性も取得が可能です。パパ・ママ育休プラス制度を活用することで、夫婦が同時に育児休暇を取得しやすくなりました。夫婦ともに条件を満たせば取得できます。
2023年11月に厚生労働省は、夫婦ともに育休を14日以上取得した場合、休業前の賃金とほぼ同額の給付金を受けられるようにする案を示しました。
かねてより検討されていた、育児休業給付金を現行の賃金67%から最大80%へ引き上げる案を実施し、給付金には社会保険料がかからないことから、実質育休前と同額の手取り収入を受け取れるようにする方針です(出生後休業支援給付の創設)。また、育児休業後に2歳未満の子どもを育てるために時短勤務をする場合は、労働時間や日数の制限を設けずに、各月に支払われた賃金の1割が支給されます(育児時短就業給付の創設)。
対象となるのは、男性の育児休業取得を促進する「産後パパ育休」と女性の産前産後休業後の8週間以内の育児休業です。最大28日間、それぞれ実質手取り10割の給付金が受け取れます。
これらの案が検討されている背景には重大な少子化問題があり、少子化対策の一環として男性の育休取得率の向上を目指すのと、育児中の家庭の経済的負担を軽減させるのが狙いです。弊サイトが2024年2月に実施した「男性の育休に関するアンケート調査」でも、育休が付与される条件を満たす男性180名のうち、71.1%が育休を取得していないことが明らかになりました。
その理由として「休業中の経済面が不安」といった声もあり、育児休業給付金の拡充はそのような方にとって、安心して休業できる手助けとなるでしょう。この制度は2025年4月からの開始が予定されています。
育児休業給付金は、
が支給されます。ただし、支給額にも上限・下限額があることや、育休中の給与の支払い状況によって支給額は変わるため注意が必要です。基本的には以下の計算式を用いて計算します。
育児休業開始時賃金日額とは、休業開始時賃金月額証明書にある金額の休業開始前6カ月の賃金を日割りにした金額のことです。
育児休業給付金は非課税です。所得税はかからず、翌年度の住民税算定額にも含まれません。また、育児休業中の社会保険料は労使ともに免除されます。給与所得がなければ雇用保険料も発生しません。そのため社会保険料が免除されることを含めて考えると、育児休業中の手取り収入は実質8割となっています。
育児休業給付金の支給額は知りたい方は、以下の育児休業給付金シミュレーターをご活用ください。毎月の額面給与(手取り額)・育休取得期間などを入力するだけで、育休開始から180日までと181日以降のおおよその1カ月の支給額がわかります。
なお、育児休業給付金は原則2カ月に1回、2か月分がまとめて支給されます。
2人目の場合であっても、雇用保険に加入していれば育児休業給付金の申請は可能です。
勤務実績がなければ、育児休業給付金は1人目の育児休業給付金と同額になる可能性があります。育児休業給付金の計算には、産休・育休の期間が免除され、1人目の育児休業に入る前の休業開始時賃金月額証明書で計算することになるためです。
1人目の育児休業から復帰した後、産休・育休前より時短勤務(定時よりも早く帰宅すること)を希望する方が多く、給与額が総支給額よりも減りがちです。
時短勤務のまま2人目を出産した場合、時短勤務の給与より休業開始時賃金月額証明書の金額が減ります。そのため、連続して育児休業を取得し時短勤務に入る前の労働時間での給付を受け取る労働者が多いといえます。
人事・労務担当者は育児休業から復帰した従業員を迎える場合、このような育児休業の取得ケースがあることも念頭においておきましょう。
育児休業給付金がもらえる方は、下記の条件を満たしている方です。
原則、養育している子供が1歳となった日の前日※までである育児休業給付金ですが、一律給付金を停止した場合に困る家庭もあります。
具体的には1歳の誕生日の前々日。民法の規定上、誕生日の前日をもって満年齢に達したとみなされるため。
そのため、一定の条件を満たせば延長が可能です。
育児休業給付金の申請は対象の従業員に申請書類を記載してもらい、事業主が代わりに申請します。
事業主は育児休業を希望する従業員がいる旨をハローワークに伝え、育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書に必要事項を記載し、提出します。休業開始賃金月証明書も同様にハローワークでもらえます。
出勤簿のフォーマットは指定がないので、会社で使用しているもので問題ありません。もし社内でフォーマットがない場合は、弊サイトで公開している無料テンプレートをご活用ください。自動計算機能付きで、今すぐ実務で使用できます。
母子健康手帳については、厚生労働省のサイトからフォーマットをダウンロード可能です。その他、マイナンバーの番号や通帳口座の写しが必要になるので、事前に育児休業に入る従業員の方へ依頼しておきましょう。
2020年4月より、特定の法人は雇用保険の育児休業給付受給資格確認票・ (初回) 育児休業給付金支給申請書と、育児休業給付金支給申請書は電子申請義務化の対象です。特定の法人とは、下記を指します。
ここからは働き方改革の推進に役立つ出産後の育児休暇や、時短勤務制度を中心にご紹介します。
産後パパ育休(出生時育児休業)とは子の出生後8週間以内に、父親が4週間の育児休業を取得できる制度です。これまで解説した子が1歳までの育児休業とは別に取得でき、原則、休業の2週間前までに取得申請をおこなえば取得できます。また分割して2回の取得も可能です。
子供の出生後8週間以内に4週間まで取得可能
原則休業の2週間前まで
雇用環境の整備など、今回の改正で義務づけられている内容以上の取り組みの実施について、労使協定で定められている場合は、1カ月前までとすることが可能
分割して2回取得可能
原則休業の2週間前まで初めにまとめて申し出ることが必要
労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能
休業中の就業に関しては、労使協定を締結している場合に限り労働者が合意した範囲で就業できます。具体的な手続きは、以下のような流れで進めます。
休業中の就業についての流れ
なお、この産後パパ育休は2022年10月より新設された制度です。2022年9月30日まであった「パパ休暇」は、産後パパ育休の新設に伴い廃止されています。
パパ・ママ育休プラス制度とは、対象の子供の年齢が1歳2カ月になるまで、夫婦ともに育児休業を取得することで休業を延長できる制度です。夫婦が同じ職場にいる従業員にとっては最適な制度でしょう。
夫婦ともに育児休業を取得する場合、以下の条件を満たすことで申請が可能です。
時短勤務とは、3歳未満の子供をもつ労働者が1日の労働時間を短縮する制度です。対象となる従業員から時短勤務の請求があった場合、事業主は時短勤務もしくは時短勤務に代わる措置の実施が義務づけられています。
子の看護休暇とは、育児・介護休業法に定められている子供の病気やけがなど、看護が必要なときに利用できる休暇です。小学校就学前までの子供がいれば、事業主に申し出ることで看護休暇を取得申請できます。1人であれば年5日、2人以上であれば10日まで取得可能です。
育児や介護をおこなうすべての労働者が、子の看護休暇や介護休暇を時間単位で取得できます。
事業主は男女ともに仕事と育児を両立できるように、雇用環境整備、個別周知・意向確認の措置の義務化が課せられています。
労働者が育児休業や産後パパ育休を申請しやすくするために、事業主は以下のいずれかの措置を講じ、職場環境の整備に努める必要があります。また下記の措置に関し、できる限り複数の措置を講じることが望ましいとされています。
職場における、妊娠・出産・育児休業・介護休業などに関するハラスメント対策やセクシャルハラスメント対策は事業主の義務です。
男女雇用機会均等法では、女性労働者の妊娠・出産など厚生労働省令で定める事由を理由とする解雇その他不利益取り扱いを禁止しています。また、育児・介護休業法でも育児休業などの申し出・取得を理由とする解雇その他不利益な取り扱いを禁止しています。
育児休業に関して、上司・同僚を含む従業員すべてにマタニティハラスメントを防ぐための研修を実施し、健全な労働環境を構築することが大切です。
事業主は本人または配偶者の妊娠・出産などを申し出た労働者に対し、育児休業制度などに関する事項の周知と、休業取得の意向確認について、個別に対応する必要があります。なお、育児休業取得を控えさせるような、個別周知と意向確認は認められません。
個別周知および意向確認は、以下のいずれかの方法によりおこないます。
面談はオンライン面談も可能であり、FAXや電子メールなどは、労働者が希望した場合のみ対応します。
育児・介護休業法は段階的に施行されています。直近の改正は2023年4月1日に施行されました。
常時雇用する従業員が1,000名を超える事業主は育児休業などの取得状況を、年に一度公表することが義務づけられました。
公表内容は、男性の「育児休業などの取得率」または「育児休業などと育児目的休暇の取得率」で、インターネットなど、一般の方が閲覧可能な方法で公表する必要があります。自社のWebサイトほか、厚生労働省が運営するWebサイト「両立支援のひろば」での公表も推奨されています。
従業員が育児休業給付金を請求した場合、事業主は速やかに育児休業給付金の申請を進めなければなりません。近年、育児に関わる法律は頻繁に改正されており、法令違反にならないように、適切な対応が必要です。
育児休暇中の育児休業給付金のポイント
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
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