この記事の結論
- 「勤怠」とは、出退勤状況や休暇や休憩などの出勤状況のこと
- 「勤怠管理」とは、社員が就業規則や雇用契約に則った働き方をしているか管理すること
- 勤怠管理では、労働時間や残業時間・出勤日数・休暇日数などを管理する必要がある
- 勤怠管理の方法は、タイムカード・Excelファイル・勤怠管理システムなど
この記事の結論
企業は従前から労働時間を把握する義務がありますが、働き方改革関連法が施行され、より正確な勤怠管理を求められるようになりました。
正社員だけでなく、契約社員や派遣社員・アルバイトやパートタイムなど、すべての従業者に対して勤怠管理を行わなくてはなりません。
そのため、人事・労務担当者は勤怠について適正な把握を求められます。正しい勤怠管理をおこなうために、勤怠の基本的な知識を身につけましょう。
目次
勤怠管理を意識している人事は多くいますが、そもそも勤怠とはどういうことなのか理解している人は少ないのではないでしょうか。辞書で「勤怠」を調べると、下記のように出てきます。
仕事に励むことと怠けること。または出勤と欠勤。勤惰。
このように辞書では勤勉と怠惰で勤怠となっていますが、一般的に勤怠というと、出退勤状況や休暇や休憩などの出勤状況のことを指します。
社員が何時に出社して何時に退社したか、休憩や休暇はいつ取得したか、残業はどの程度しているかなどを把握するため出勤簿を記録し、就業規則や雇用契約に則った働き方をしているか管理することを勤怠管理といいます。
似たような言葉に勤務がありますが、勤務は会社などにつとめ、働くことを意味する言葉です。勤怠と勤務の違いは以下の記事で詳しくまとめています。
勤怠管理の目的は、従業員の勤怠情報を正しく管理し、適切に給与を支払うことや従業員が健康的に働ける労働環境を提供することです。
特に近年は「長時間労働」や「有休取得率の低下」など就業状況にまつわる問題が深刻化しており、労働環境の悪化が社会問題となっています。
勤怠管理をおこなうことで、出退勤や残業などの従業員の就業状況を企業側が把握し、管理することが可能です。その結果、上記の勤怠にまつわる問題を未然に防げるため、従業員が働きやすい労働環境を提供できます。
勤怠管理で人事・労務が把握する情報は、出退勤時刻や時間外労働時間だけではありません。有休日数や出勤日数など、把握すべき項目は数多くあります。一般的に人事・労務が勤怠管理で把握すべき項目は、以下のとおりです。
出勤時間とは、業務を開始した際に打刻された時間です。退勤時間とは、業務を終了した際に打刻された時間です。
会社に到着したのが8時であっても、業務を開始した時間(打刻された時間)が9時であれば出勤時間は9時となります。会社から帰った時間が19時であっても、業務を終了した時間(打刻された時間)が18時であれば、18時が退勤時間となります。
出社時間や退社時間と混同している会社もありますが、出社時間は会社に到着した時間のことで、退社時間は会社から帰宅した時間です。この区別を理解していないと、残業時間で問題になることがあるため、しっかり把握しておきましょう。
雇用契約や会社の就業規則で定められた始業時間から終業時間までのことを、勤務時間といいます。就業時間または所定就業時間ともいい、9時から18時までの勤務が定められている会社の場合、勤務時間は9時間です。
似た言葉で労働時間がありますが、労働時間は勤務時間から休憩時間を差し引いた時間です。勤務時間が9時から18時の会社の場合、休憩時間が1時間であれば、労働時間は8時間となります。
従業者が業務のために、会社に出勤した日数のことを出勤日数といいます。有給休暇を取得した場合、会社に出勤しなければ出勤日に数えられませんが、1時間でも出社した場合は出勤日として数えられます。
休憩時間とは、業務途中で休憩をとる時間のことです。労働基準法では、従業員の労働時間によって以下の休憩時間を取得することが義務づけられています。
1日の労働時間 | 休憩時間 |
---|---|
6時間を超える場合 | 45分 |
8時間を超える場合 | 60分 |
なお、休憩時間は従業員が完全に労働から離れている必要があり、休憩中に電話番などをしていると休憩時間として扱われません。
時間外労働とは、労働基準法における法定労働時間を超えた労働時間のことです。一般的には残業時間といわれますが、超過勤務とも呼ばれます。
法定労働時間は1日8時間・週40時間と定められており、これを超過した場合、残業時間が累積されていきます。残業時間で気をつけなければならないのが、法定労働時間に対する残業時間なのか、それとも所定労働時間に対しての残業なのかという点です。
所定労働時間は、会社の就業規則で定められた労働時間であるため、たとえば所定労働時間が1日7時間の会社の場合、従業者が2時間残業したとしても、割増賃金は1時間分となります。
22時から翌朝5時までの時間は、深夜労働に該当します。この時間帯に就業する場合は深夜労働として扱われるため、通常の賃金より割増した深夜割増賃金を支払わなくてはなりません。
深夜手当などといわれますが、割増率は労働基準法で定められており、基礎賃金の25パーセント以上とされています。
なお、上記時間帯が残業時間と重なる場合には、割増率は法定時間外労働の25パーセントと深夜割増の25パーセントとを合わせて50パーセントとなるので注意が必要です。
労働基準法第35条では、1週間に1回あるいは4週間を通じて4日以上の休日を与えることが定められているため、この法定休日に働かせた場合は法定休日労働となり、この日の労働時間がそのまま割増賃金の対象です。
割増率は労働基準法で定められており、基礎賃金の35パーセント以上とされています。
有給休暇は労働基準法の第39条で認められている権利で、年次有給休暇のことです。一定期間勤続すると取得することができる休暇で、休んでも賃金が減額されません。
たとえば正社員の場合、雇い入れから半年経過した時点で、10日間の有給休暇が付与されます。その後は1年ごとに有給休暇が付与されます。
働き方改革関連法により、2019年から有給休暇の取得が義務化されることになりました。年10日以上の有給休暇が付与される場合、会社は必ず5日以上の有給休暇を従業者に取得させなくてはなりません。
会社からの業務免除が受けられないことを欠勤といいます。従業者の事情による休暇のため、欠勤をした場合は給与が支払われません。
休暇とは原則として、労働者が権利を行使したことによって就労義務が免除されることを指します。
やむを得ない事情で欠勤する場合は、会社の裁量により、後で有給休暇に切り替えることも可能です。欠勤扱いになってしまうと給与が支払われないだけでなく、賞与の査定などにも影響を与えてしまうため、有給休暇を取得することで査定のリスクを回避できます。
あらかじめ会社に報告をせず欠勤した場合は無断欠勤が適用され、評価や査定に大きな影響を与えるでしょう。無断欠勤が続くと会社の就業規定による懲戒処分が適用され、退職金が支払われないこともあります。また、再就職が不利になってしまうことも考えられます。
会社に欠勤を報告していても、その理由が就業規則にあたらない場合、正当な理由なく休んだとして、無断欠勤として扱いされることもあります。
勤怠管理が重要な理由として、主に以下の4つが挙げられます。
1点目は、正しく給与計算する必要があるためです。
給与は従業員の就業状況に応じて支払われますが、残業や休日出勤など従業員の就業時間を正確に記録しなければ正しく給与を計算できません。給与を正しく計算できなければ、支払われるべき給与が未払いとなり、従業員から訴訟を受けるリスクもあります。
給与未払いになれば従業員や社会からの信用を失い、経営に大きな悪影響を与えるため、正確に就業情報を管理する必要があります。
2点目は、従業員の健康管理をおこなう必要があるためです。
近年は過度な長時間労働による過労死などが社会問題として取り上げられ、健全な労働環境を整備することが企業に求められています。勤怠管理をおこなうことで、
を把握できます。過労によるトラブルなどを未然に防ぎ、従業員が長期に渡り健康な状態で働くことが可能です。
3点目は、労働基準法を遵守するためです。労働基準法では法定労働時間として「1日8時間・週40時間」が定められており、残業や休日労働にも上限が設定されています。
上記の規定を守らない場合、労働基準法違反となり、罰金などのペナルティが科される可能性もあります。近年は過剰な長時間労働を厳しく取り締まる傾向にあり、企業はより厳密な勤怠管理が必要です。
4点目は、働き方改革に対応するためです。政府は「働き方改革」を掲げ、従業員の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現に向けた取り組みを推進しています。
企業ではこうした働き方改革に対応すべく、フレックスタイム制やリモートワークの導入も盛んにおこなわれており、働き方が多様化していることが実情です。
そのため、従業員によって就業状況が異なるケースが増えてきており、各従業員の働き方に合わせた勤怠管理が求められています。働き方改革による多様な就業状況を適切に管理するためにも、勤怠管理は重要です。
勤怠管理について適切な管理を怠ると、さまざまなリスクが生じてしまうため、注意が必要です。
適切な勤怠管理を怠ると正確な労働時間の把握ができず、給与計算の際に残業代の未払いなどのミスが発生しやすくなります。社員とのトラブルを回避し、会社の信頼を守るためにも、適切な勤怠管理をおこないましょう。
2019年4月に労働基準法の改正により、年5日の有給休暇の取得が義務化されました。企業はこれを怠った場合、違反者一人に対し30万円の罰金が科されることもあります。
このような法律による罰則を受けることや法令違反とならないためにも、適切な勤怠管理が重要です。
その他、よくある勤怠管理の課題については以下の記事で詳しく解説しています。
勤怠管理の方法としておすすめなのは、以下4つのやり方です。
1点目は「タイムカード」による勤怠管理方法です。多くの企業で導入される勤怠管理方法で、専用のタイムレコーダーにタイムカードを挿入し出退勤時間を打刻します。
タイムカードによる勤怠管理のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット | ・短時間で打刻できる ・導入が比較的簡単 |
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デメリット | ・リモートワークなどに対応できない ・出退勤時間しか管理できない |
タイムカードを挿入するだけで打刻できるため、手間をかけずに勤怠管理できる点が特長です。また、タイムレコーダーを導入するだけで、簡単かつすぐに勤怠管理を始められます。
一方で、タイムレコーダーにタイムカードを挿入して打刻するため、リモートワークなど社外勤務の勤怠管理には対応が難しいでしょう。出退勤時間しか管理できない点もデメリットです。
2点目は「Excelファイル」での勤怠管理です。PCに備わっている表計算ソフトのExcelファイルに出退勤時刻などを入力することで、勤怠管理できます。
Excelファイルによる勤怠管理のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | ・導入にコストがかからない ・豊富なテンプレートがある |
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デメリット | ・ミスした箇所の捜索が困難 ・法改正への対応が難しい |
PCにExcelファイルがすでに導入されていれば、導入コストがかからない点が魅力です。勤怠管理用のテンプレートも数多く用意されており、自社の就業状況に合わせた勤怠管理もできます。
一方で、数値の入力ミスなどがあった場合、該当箇所を探すことが非常に困難な点がデメリットです。法改正があったときには、手動で計算式を修正する必要があります。
3点目が、「社内で独自のシステムを構築」する方法です。自社でオリジナルの勤怠管理用システムをゼロから構築し、就業状況を管理します。
独自システム構築のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット | ・自由にカスタマイズできる |
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デメリット | ・導入コストが高い |
システムを自由にカスタマイズできるため、複雑な就業規則を採用している企業におすすめです。
一方で、サーバー構築費など多額の導入コストがかかる点がデメリットです。運用管理費など維持費用も高く、予算に余裕のある大企業が主に採用しています。
4点目は「勤怠管理システム・勤怠管理アプリ」による勤怠管理です。勤怠管理に特化したシステムや勤怠管理アプリを導入し、勤怠管理をおこないます。
勤怠管理システム・勤怠管理アプリのメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット | ・時間・場所に縛られず勤怠管理可能 ・スマホやタブレットに対応 |
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デメリット | ・導入・維持コストがかかる ・運用に慣れるまで時間がかかる |
クラウド型の勤怠管理システムの場合、インターネット環境さえあればいつでもどこでもシステムにアクセスし勤怠管理作業ができます。スマホやタブレットに対応しているシステムも多く、スキマ時間での作業がしやすい点もメリットです。
一方で、システム導入時のコストや月額利用料などの維持費がかかる点がデメリットです。システムを初めて導入する企業の場合は、システムを利用した勤怠管理に慣れるまで時間がかかるでしょう。
勤怠管理方法の選び方として、以下の2つが挙げられます。
1点目は「正確に勤怠管理できるか」です。
勤怠情報は給与計算のもととなる情報で、間違いがあると給与計算が正しくおこなわれず、適切な給与を支払えません。よって、正確に勤怠情報を記録管理できるかが最も重要なポイントです。
たとえば、勤怠管理システムの場合はセキュリティ性が高いため、他人へのなりすましや情報改ざんが難しく、情報の正確性に関しては秀でています。勤怠管理方法を選ぶ際は、勤怠情報を正確に管理できるかという観点で選ぶと良いでしょう。
2点目は「費用対効果があっているか」という点です。ここまで紹介した勤怠管理方法は費用がかからないものから、導入・維持費用がかかるものまで幅広くあります。
費用をかける方が複雑な勤務体系に対応できるなど可能なことも多くなりますが、自社に必要のない機能を備えた方法を導入しても、その分のコストが無駄になってしまいます。
支払う費用に対してどのような機能を利用できるかを考え、予算に見合った勤怠管理方法を選択すると良いでしょう。
勤怠管理は全社員が積極的に協力してくれれば問題ありませんが、従業員の多い会社では、タイムレコーダーの打刻漏れや記載ミスなどが日常的に発生します。人数の多い会社では給与計算のときにようやく気付くということも多く、そこが勤怠管理が難しい一面もあります。
24時間見張っているわけにもいかず、こうした問題が改善できない会社も多いのではないでしょうか。ここからはそんな勤怠管理が難しい場合の勤怠管理の方法について、対応策をご紹介します。
何度も遅刻や欠勤を繰り返す従業者は、社会人としての自覚が低いまたは仕事に対してやる気がないなどが考えられます。仕事に対する姿勢や周りへの態度を見ていれば、原因もある程度絞られることでしょう。
どちらにしてもこのままだと自主退職、または解雇になってしまうことも考えられるため、遅刻や欠勤などの多い従業者に対しては、その都度、注意をすることが必要です。遅れた理由や休んだ理由をヒアリングすることで、本人も勤怠状況が良くないことを自覚し、態度を改めることも考えられます。
また業務が追い付いていない場合、残業が続いて寝不足が続いていることもあります。ヒアリングすることで問題点が判明し、改善策を立案できるでしょう。
従業者も会社に意見を聞いてもらえたことで、ストレスの解消につながり、勤怠状況が改善されることもあります。
リモートワーク時の管理の仕方も、勤怠管理の難しい点です。特にExcelファイルによる勤怠管理では、従業員が入力した情報で労働時間を把握することとなります。
従業員が法定労働時間を超えて仕事をしていたにもかかわらず、少ない時間で入力していた場合、正確な就業状況を把握できません。
リモートワークを導入する企業は、GPS機能に対応した勤怠管理システムを導入するなど、社外の就業状況を確認できる勤怠管理方法を導入することが大切です。
勤怠に関する法規制でもっとも注意が必要なことは、残業代の未払いです。全国的に労働基準法32条の労働時間や37条の割増賃金に違反している会社が多いため、残業代を削減しようとしていることが読み取れます。
会社側とすれば、少しでも経費を削減するために残業代を削りたいところですが、従業者にとっては賃金を引き下げられる状態となります。残業代の支払いに応じない場合、裁判になるリスクも考えられるでしょう。
また、支払い拒否の態様によっては刑事事件に発展することもあるため、会社の信用を失ってしまうでしょう。
働き方改革で労働安全衛生法が改正され、2019年4月より「労働時間の客観的な把握」が義務化されました。
労働時間の記録方法としては、原則「使用者が自ら現認することにより確認し、記録すること」または「タイムカード、ICカードなどの客観的な記録を基礎として確認し、記録すること」による方法とされています。
「労働時間の客観的な把握」の義務化のほかにも、時間外労働の是正に向けて、2020年からは中小企業においても残業時間の上限規制が施行されました。
労働関連法における法改正は定期的におこなわれるため、法令を遵守するためにも、勤怠管理は適切におこなう必要があります。
勤怠にまつわる話を紹介しましたが、いかがでしたでしたか。
勤怠管理の主な目的は、就業規則や雇用契約に則った働き方ができているかのチェックのためですが、従業者の健康管理のためにおこなっている会社もあります。
従業者に適正な給与を支払うためにも、勤怠の基礎知識を理解しておくことが必要です。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
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