従業員の入社時には、必要となる手続きや書類がいくつかあります。企業によっては、法律で定められたもの以外にも準備しなければならない書類があるでしょう。
この記事では、入社手続きとして会社側がやらなければならないこと・手続きの流れ・必要となる書類をわかりやすく紹介します。業務担当者の方は記事内で紹介するチェックリストを参考に、手続きの漏れや遅れがないよう準備をしましょう。
目次
まず、入社手続きの全体的な流れを解説します。内定者の入社前後は、保険や税金などのさまざまな手続きや作業が必要となります。法律によって期限が定められているものもあるため、遅れが発生しないように注意しましょう。
まず初めに、入社の承諾を得られた内定者に入社手続きの案内を通知します。書面の郵送やメールの送付などの方法を用いて入社式に提出してもらう必要書類や期限、提出先などを知らせましょう。
手続きには多くの書類が必要となり準備にも時間がかかるため、内定の受諾後など早めの時点で案内を通知することが望ましいです。
入社日までに内定者からメールや郵送で必要書類を提出してもらいます。入社前や入社式当日など企業によって提出する時期は異なりますが、可能な限り早めに提出してもらうことで余裕をもって手続きを進められます。
内定者に提出してもらう必要書類は、以下のとおりです。
必要書類の提出漏れがないかをスムーズに確認できるように、事前にチェックリストを作成して準備しておきましょう。
次に法定三帳簿を作成します。法定三帳簿とは、
のことです。各書類に記載されている内容は以下のとおりです。
法定三帳簿の記載内容 | |
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労働者名簿 | ・氏名 ・生年月日 ・性別 ・履歴 ・住所 ・業務の種類 ・雇入の日付 ・退職の日付・事由 ・死亡の日付・事由 |
資金台帳 | ・氏名 ・性別 ・賃金計算期間 ・労働日数 ・労働時間数 ・時間外労働時の延長時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数 ・基本給、手当 ・賃金の控除額 |
出勤簿 | ・出勤簿、タイムレコーダーの記録 ・使用者が始業、終業時間を記録した書類 ・残業命令書、報告書 ・労働者が記録した労働時間報告書 |
また、労働基準監督署に提出を求められることもあるため、記載漏れなどには注意しましょう。
企業は条件を満たしている従業員に対して、社会保険※の加入手続きをおこないます。社会保険の具体的な加入条件は、以下のとおりです。健康保険、厚生年金保険を指します。
社会保険の加入条件
いずれかの条件に当てはまれば、企業の役員や正社員、パートタイム・アルバイトの従業員も対象となります。
ただし上記の条件を満たさない場合でも、その他の条件を満たせば、パートタイムやアルバイトなどの短時間労働者も加入対象となる可能性があります。社会保険の細かな加入条件に関しては、こちらの記事で確認するか、以下の社会保険かんたんシミュレーターをご活用ください。
2024年10月にはふたたび、社会保険の適用範囲が拡大される予定なため、どの従業員が加入対象となるのかよく確認をしましょう。
なお、社会保険の加入手続きの期限は従業員の雇用開始から5日以内です。提出書類の情報をもとに「被保険者資格取得届」を作成して、年金事務所へ提出してください。
新たに従業員が入社する際は、社会保険のほか雇用保険と労災保険の加入手続きもおこないましょう。労災保険は正社員やアルバイトなどの雇用形態にかかわらず、すべての労働者が加入する義務があります。雇用保険の加入条件は、以下のとおりです。
雇用保険の加入条件
雇用保険の加入手続きは、雇用開始から翌月の10日までです。新たに従業員を雇用した日が月末の場合、10日ほどしか猶予がないため期限に遅れないように「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出しましょう。
保険以外に、従業員の税金関係の手続きもおこなう必要があります。所得税は源泉徴収簿を作成するため「扶養控除等(異動)申告書」の提出が必要です。
住民税は納税方法が、普通徴収か特別徴収かによって異なります。特別徴収の場合、従業員の代わりに企業が住民税を納税する必要があります。
住民税の納税方法 | |
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普通徴収 | 個人で住民税の支払い手続きをおこなう |
特別徴収 | 給与から住民税が引かれる |
また住民税の手続きは、新たに入社する従業員のこれまでの職務経験で異なります。
新卒の場合 | 特別な手続きは不要 |
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中途の場合 | 前職で特別徴収を選択していた場合「給与所得者異動届出書」を市役所に提出する必要あり |
同じ年に転職して 入社した場合 |
前職の源泉徴収票を提出してもらう必要あり |
所得税の納付は、給与が発生した翌月10日が期日です。所得税・住民税関係の手続きは、最初の給与計算や支払日までにおこないましょう。
給与計算ソフトや労務管理システムなどを導入している企業は、新たに雇い入れた従業員の情報を入力する必要があります。
などのデータを法定三帳簿と提出書類の情報を照らし合わせながら、正確に入力しましょう。
サービスによっては、システム上で必要書類を作成できる場合もあります。そのようなシステムを導入すれば、書類作成や給与計算・各種保険の加入手続きの効率化につながるためおすすめです。
新しい従業員が入社してからは、業務に必要な備品を支給します。あらかじめ備品を支給しておくと、入社手続き後スムーズに業務へ取りかかることが可能です。
具体的な支給品としては社員証や名刺、オフィスの入退室に必要なICカードなどがあげられます。また制服や社用PCなどの貸与、社内システムの登録など、業務に必要な準備全般をおこないましょう。
以上で、入社手続きが完了します。入社手続きはやることも用意する書類も多く煩雑なため、新たな従業員の入社が決まったら以下のチェックリストを確認し、漏れがないようにしましょう。
ここからは、入社手続きに伴い必要となる各書類について詳しく紹介していきます。まずは、内定者の入社前に手配や発送をしておく必要がある書類の紹介をします。
これらの書類は、新たに入社する従業員宛に事前に発送し、入社前か入社時に提出を求めるのが一般的です。法律で義務づけられた書類と、企業ごとに任意で提出を求める書類に分けられます。
採用通知書(内定通知書)とは、候補者に対して採用の意思を正式に伝えるための書面です。交付に関して法的な義務はないため、決まったフォーマットはありません。企業によってはメールや口頭で伝えることも多いです。
しかし一旦交付されると、企業と内定者の間での契約の一部と見なされることがあります。特に内定が取り消された場合や条件が変更された場合には、トラブルの原因となることがあるため、企業は慎重に取り扱う必要があります。
書面で通知する場合、採用を決定した旨を記載しますが、採用通知書とあわせて入社日や応募のお礼などが書かれていることが一般的です。
もし社内で内定通知書の指定されたフォーマットがない場合は、すぐに使える無料テンプレートの活用がおすすめです。弊サイトでも内定通知書の無料テンプレートを公開していますので、下記からダウンロードの上、ご自由にご活用ください。
入社承諾書(誓約書)とは、内定者が正式に採用に応じることを証明(誓約)する書類です。法律上の義務ではありませんが、採用通知書に返信する形で、入社承諾書や誓約書の提出を求める企業もあります。
入社承諾書に関しても、無料テンプレートを公開中です。このテンプレートは入社承諾書に必要な基本的な項目を網羅しているので、今すぐ実務で使えます。
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入社手続きに関する案内通知には、入社時の手続きに必要な書類のなかで、内定者側で準備してもらう書類について明記されています。漏れなく記載することで入社時のスムーズな手続きに繋がります。
労働条件通知書とは、具体的な労働条件を通知するものです。労働基準法第15条には以下のように記されており、これに基づき企業は労働者に対して、労働条件通知書を交付しなければなりません(電子書面も含む)。
使用者は、労働者に労働契約の締結に際し、賃金、労働時間その他の労働条件について書面を交付して明示しなければならない。
一方、雇用契約書は、法律上で締結が義務づけられているものではありません。しかし多くの企業では、入社後に条件面の認識齟齬が起きないためにも雇用契約書を作成し、双方が署名することが一般的です。
弊サイトでは雇用契約書の無料テンプレートも公開しています。雇用期間や賃金の条件、業務内容、退職に関する事項など雇用契約に必要な労働条件の内容を網羅していますが、自由に項目を追加することも可能です。下記からダウンロードの上、ご活用ください。
身元保証書とは、入社する社員の身元保証人を設定するための書類です。故意または重度の過失によって従業員が企業に損害などを与えたとき、本人とともに責任を負うことを目的としています。
次に、内定者に基本的に提出してもらう書類について解説します。
年金手帳は厚生年金の加入手続きの際に必要です。年金手帳に書かれた「基礎年金番号」が必要になります。もし年金手帳を紛失してしまった場合は、年金事務所で再交付が可能です。
雇用保険の加入にあたり「雇用保険被保険者番号」が必要です。この番号を確認するために、雇用保険被保険者証が必要になります。雇用保険に以前加入していた中途入社の方は、この番号を引き続き使用して加入するため、雇用保険被保険者証を新しい職場に提出します。
前職の源泉徴収票は、年末調整の際に必要になります。
の場合、源泉徴収票を提出する必要はありません。
扶養控除等申告書の正式名称は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。この書類をもとに、配偶者や扶養家族の有無を確認し、源泉徴収する所得税が算出されます。扶養家族がいない場合もこの書類は提出が義務づけられています。
扶養家族がいる場合「健康保険被扶養者異動届」の提出が必要になります。また、被扶養者の追加や削除があった場合も、この届書は随時提出する必要があります。
給与振込先の届書は、給与を受け取る金融機関の口座情報を届け出るために必要です。場合によっては通帳コピーの提出も必要となるため、会社のルールを確認し、内定者に準備してもらいます。
年末調整や雇用保険、社会保険の加入手続きの際にマイナンバーが必要となります。注意点として、マイナンバー情報を受け取る場合は、必ず使用目的を伝えてから受け取る必要があります。
ここからは、必要に応じて内定者に提出を求める書類を紹介します。
これら以外にも、企業によって独自に必要となる書類があるかもしれません。そちらと合わせて漏れがないよう手配しましょう。
企業によって、入社時に特定の資格や免許を保有していることを書類の提出により証明する必要があります。証明書類は資格ごとに異なるため、適切な書類を案内します。
履歴書に書かれた住所と居住が同一であるかを確認するために取得します。住民税の手続きの際にも必要になります。
新卒や第二新卒採用の場合、卒業証明書の提出を求めるケースがあります。なお新卒採用は内定段階ではまだ卒業見込みのため、その場合「卒業見込証明書」を提出してもらいます。
新卒採用の際に求められるケースがある書類です。大学なら履修した講義名や単位数、評価などが記載された書類です。一般的には大学の学生課で取り寄せることができますが、発行方法は大学のホームページなどで確認します。
中途入社の社員が、前職を間違いなく退職していることを証明する書類です。企業としての発行義務はありませんが、自社で提出を求めるようなら内定者には前の職場から取り寄せてもらいます。
貸し出し物や備品については、企業ごとに必要なものが異なるでしょう。従業員がスムーズに業務を開始できるよう、業務に必要な物品やアカウントなどはリストにしておき、漏れのないよう準備をおこないます。
以下に、代表的な貸し出し物や備品のリストを作成しました。これ以外に必要なものがあれば、追記して独自のチェックリストを作成してください。
入社手続きのよくある困りごととして、以下の3つがあげられます。
ここでは、3つの困りごとが起こる理由とそれぞれの対処法について解説します。
従業員が提出書類を用意できず、各種保険加入などの手続きがスムーズに進まない可能性があります。
たとえば従業員が雇用保険被保険者証を紛失している場合、雇用保険被保険者番号を確認できません。わからない場合は前の職場に問い合わせて番号を確認するか、ハローワークで再発行してもらう必要があります。
また基礎年金番号通知書などには社会保険の加入に必要な年金番号が記載されています。基礎年金番号がわからない場合は、代わりにマイナンバーを記載することで対応可能です。
社会保険や雇用保険に加入手続きが期限までに間に合わなかった場合でも、2年以内の遅延であれば保険適用される日までさかのぼって加入できます。
具体的には遅延期間分の出勤簿と賃金台帳の写しに加えて遅延理由書を作成し、年金事務所(社会保険)やハローワーク(雇用保険)へ提出する必要があります。
期限が過ぎても各種保険の手続きはおこなえますが、保険料は一括で請求される可能性があるため注意しましょう。
外国人の従業員によっては給与の天引きを避けるために各種保険へ加入したがらない可能性があります。外国人であっても保険の条件に当てはまる場合は加入しなければなりません。
そのため、事業主は日本の保険制度やメリットを外国人にわかりやすく説明し、理解してもらうことが必要です。ただし、以下のように例外となるケースもあります。
日本と社会保障協定を結んでいる国の外国人労働者の場合、日本で働く期間が5年以内であれば、日本の社会保障制度に加入する必要はありません。また在留期間が短く給付を受けることなく帰国した場合、脱退一時金としてそれまでに納めた年金保険料の一部を返還される場合もあります。
この記事では、入社手続きに関する各種チェックリストを紹介しました。
など入社手続きは多岐にわたります。今回の記事を参考に、企業のルールに沿ったチェックリストを作成してみましょう。
また入社手続きだけでなく、労務の手続き業務には昇給・昇格、休職や退職など範囲は多岐にわたります。どういった手続きが必要なのか詳しく知りたい方は「正しい労務管理がわかるガイド」を手元に1冊持っておけると安心です。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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