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雇用保険とは?保険料の計算方法・加入対象者・給付金をわかりやすく解説

雇用保険とは?保険料の計算方法・加入対象者・給付金をわかりやすく解説

監修者:難波 聡明 なんば社会保険労務士事務所
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この記事でわかること

  • 雇用保険の加入対象となる条件・ならない条件
  • 雇用保険料の計算方法と2023年の雇用保険料率
  • 雇用保険の手続きの流れ
  • 雇用保険の給付制度について

雇用保険とは、政府が運営する強制保険制度です。

これまで雇用保険は、何度も法改正がされています。また、雇用保険によって多様な働き方を求める労働者の保護強化や、労働環境の向上を目指す企業にも助成金・補助金の支援がなされています。

今回は雇用保険とはどんな保障制度なのか、これまでの法改正の内容、雇用保険の加入対象となる条件、雇用保険料の計算方法、給付金の種類などをわかりやすく解説します。

雇用保険とは

雇用保険制度とは

雇用保険とは、労働者が失業や育児・介護などによる休業が原因で収入が減ったとき、必要な給付などをおこなうことで、労働者の生活の安定を図ることを目的に設けられている保険制度です。

わかりやすく言うと「失業して収入が無くなってしまった」「家族の育児・介護のため休業しなければならなくなった」など、誰にでも起こり得る収入が減る事態に備えた公的保険と言えます。

雇用保険は、政府が運営する強制加入の保険です。1人でも労働者を雇用している企業は加入する義務があります。

雇用保険の目的

また雇用保険は失業・休業時の経済的支援だけでなく、再就職の促進や早期就職の支援なども目的としており、求職活動時などにも必要な給付を受けられます。

給付を受けられるのは労働者だけでなく、事業主も雇用調整助成金特定求職者雇用開発助成金キャリアアップ助成金など支援を目的とした助成金を受け取ることができるメリットがあります。

雇用保険と社会保険の違い

社会保険とは、健康保険・厚生年金保険・介護保険からなる保険制度の総称のことを指します。対して雇用保険は、労働保険のひとつです。労働保険には雇用保険以外に労災保険があります。

社会保険とは

社会保険 ・健康保険
・厚生年金保険
・介護保険
労働保険 ・雇用保険
・労災保険

社会保険を”生活を保障する制度全般”としてとらえるとき、雇用保険・労災保険も含めて”社会保険”と総称されることもありますが、基本的には主に健康保険と厚生年金保険等を指す言葉として用いられています。

社会保険(健康保険・厚生年金保険)と雇用保険は、加入条件や目的が異なります。

労働時間 事業場規模 賃金 継続雇用期間
雇用保険 週の所定労働時間が20時間以上 従業員数
1人以上の企業
条件なし 31日以上
社会保険 ・フルタイムで働く方
・週の所定労働時間および
月の所定労働日数が
フルタイムの4分の3以上
・週の所定労働時間が20時間以上
従業員数
101人以上の企業
月額賃金が
8.8万円以上
2カ月以上

一部例外あり。
いずれも学生は対象外です(雇用保険の場合は例外あり)。

そのため社会保険には加入しておらず、労働保険のみに加入している労働者も多いでしょう。

これまでの雇用保険関連の法改正について

これまで労働者保護の観点や多様な働き方への対応として、雇用保険は何度も法改正の対象となっています。近年、法改正によって変更された内容は以下のとおりです。

法改正による雇用保険の変更(一部)

雇用保険の加入条件(加入要件)

雇用保険は業種や規模にかかわらず、従業員を1名でも雇用している企業は雇用保険の適用事業所となります。

そして、適用事業に雇用されるすべての労働者(雇用関係によって、収入を得る労働者)は雇用保険に加入しなければいけません。
適用対象外の場合もあり

アルバイト・パートタイム労働者の場合も、以下のすべての条件を満たすとき雇用保険の加入対象となります。

雇用保険の加入条件

  • 1週間当たりの所定労働時間が20時間以上であること
  • 31日以上引き続き雇用される見込みや予定があること

65歳以上の労働者も、高年齢被保険者として雇用保険の加入対象です。70歳以上の労働者も同じく雇用保険を加入できますが、厚生年金保険の被保険者資格を喪失するため、雇用保険とは別に手続きをおこなう必要があります。

雇用保険の適用対象外となる人の条件

雇用保険の加入条件である「1週間あたりの所定労働時間が20時間以上」および「31日以上引き続き雇用される見込みや予定がある」を満たしていない人は、雇用保険の対象外です。

また、働く人の立場によっては雇用保険の加入条件が異なります。具体的に適用対象外となる可能性がある方については『雇用保険の3つの加入条件』の記事で紹介しています。

雇用保険に関する手続き方法|必要書類と手続きの流れ

次に、入社・加入時と転職・退職時の雇用保険の手続きに必要な書類と手続きの流れについて解説します。

入社・加入時の雇用保険の手続き

労働者を事業所に雇い入れるまたは加入条件を満たした場合、その都度

を翌月の10日までに提出する必要があります。また初めて労働者を雇い入れる場合、あわせて雇用保険適用事業所設置届を提出します。各届出の提出先は以下のとおりです。

書類 提出先
保険関係成立届 労働基準監督署
雇用保険者資格取得届 ハローワーク
雇用保険適用事業所設置届

資格取得の届け出をおこなったあとはハローワークから、

が交付されます。

雇用保険被保険者証とは

従業員が雇用保険に入っていることを示す書類のこと。雇用保険被保険者番号などが記載されている重要な書類であり、事業主から本人へ渡す必要があります。

※雇用保険被保険者番号とは

雇用保険被保険者番号とは、雇用保険の加入手続きなどの必要な本人を特定するための番号のこと。

雇用保険被保険者資格取得確認通知書も同様に、必ず被険者本人に渡しましょう。従業員における被保険者番号の調べ方は「雇用保険被保険者証」と「離職票」を閲覧する方法しかありません。重要な個人情報なため慎重に扱いましょう。

転職・退職時の雇用保険の手続き

労働者が転職・退職する際、労働者が退職の意思を示した日の翌日から10日以内

をハローワークに提出します。

届出のあとは離職票と源泉徴収票を発行し、離職者の希望に応じて退職証明書も交付します。離職票とは、労働者が失業の認定を受けるために提出する雇用保険受給資格者証の発行に必要な重要書類です。

雇用保険料の計算方法

雇用保険料の計算

雇用保険料は以下の計算式で算出します。

雇用保険料=賃金×雇用保険料率

雇用保険料の計算式の基準となる賃金は、下記が含まれます。

賃金の対象 ・基本賃金
・時間外労働手当(深夜手当を含む)
・家族手当
賞与
通勤手当
・扶養手当
休業手当
・社会保険料
・雇用保険料など
賃金の対象外 ・役員報酬
・結婚祝い金
・死亡弔慰金
・退職金
・休業補償費
傷病手当金
・出張旅費、宿泊費

2023年(令和5年度)の雇用保険料率

2023年4月から、事業主および労働者負担の雇用保険料率が変更となり、2022年度と比較するとさらに引き上げになりました。2023年4月1日〜2024年3月31日までの雇用保険料率は、下記のとおりです。

2023年の雇用保険料率

雇用保険料は月にいくら?計算シミュレーション

では、実際に雇用保険料は月にいくらぐらい支払うのでしょうか?企業が「一般事業」を営み、従業員の基本賃金と賞与を雇用保険料の対象とする場合を例に見ていきましょう。

この例では従業員の基本賃金が20万円、賞与が40万円とします。その場合、1年間の賃金の合計額は320万円です。この合計額に雇用保険料率をかけることで、企業側と従業員側の雇用保険料が算出できます。

基本賃金 20万円
賞与 40万円
賃金合計額 320万円
(20万円×12カ月+40万円)
従業員が1年間で支払う雇用保険料
(保険料率0.6%)
19,200円
(320万円×0.6%)
企業が1年間で支払う雇用保険料
(保険料率0.95%)
30,040円
(320万円×0.95%)

なお企業負担の保険料率については、

  • 農林水産・清酒製造事業の場合:1.05%
  • 建設事業の場合:1.15%

となるため注意してください。

雇用保険料の提出先・期限・納付方法

雇用保険料の納付は、年度更新(毎年6月1日から7月10日)に労働者災害保険料と一括で納付します。

提出先 提出先所轄の労働基準監督署
労働保険概算保険料申告書・確定保険料申告書を提出)
提出期限 毎年6月1日〜7月10日まで
納付方法 労働基準監督署または納付書により
金融機関(口座振替も可)で納付

特例で納付期限が延長される可能性があります。

労働者が受け取れる雇用保険の給付金

雇用保険で受け取れる給付金には、

の2種類があります。雇用保険の加入者は、失業や定年後再雇用に伴う収入の減少、育児休業介護休業を取得した場合に以下の給付を受けられます。

失業等給付とは

失業等給付は、失業した場合や雇用の継続が難しくなる事由が発生した場合に支払われる給付です。大きく分けて、4つの給付制度があります。

失業等給付の種類

それぞれの給付制度には目的があります。

失業等給付 目的
求職者給付 ・離職後の失業者の生活を安定させるため
・求職活動をしやすくするため
就職促進給付 ・失業者の再就職の援助、促進
教育訓練給付 ・労働者の能力開発の支援
・再就職の支援
・雇用の安定
雇用継続給付 ・職業生活の継続の援助、促進

① 求職者給付

求職者給付とは被保険者が離職し、働く意思や能力があるにもかからず求職活動をしても就業できない場合に支払われます。

多くの人が離職後に受け取る「失業手当(基本手当)」を受給するためには、離職前の2年の間、被保険者である期間が通算12カ月以上あることが条件です。受給期間は原則、離職した日の翌日から1年間です。

特定受給資格者または特定理由離職者は除く。

なお求職者給付においては被保険者を以下4つに区分しており、基本手当を受け取れるのは「一般被保険者」のみです。被保険者の種類によって、受け取れる給付金が異なります。

種類 被保険者の定義 対象となる失業等給付
一般被保険者 ・65歳未満
・他の被保険者の種類に該当しない方
・基本手当
・技能習得手当
・寄宿手当
・傷病手当
高年齢被保険者 ・65歳以上
・短期雇用被保険者、
日雇労働被保険者に該当しない方
・高年齢求職者給付金
短期雇用被保険者 ・4カ月以内の期間を定めて雇用されていた方
・週の所定労働時間が30時間未満だった方
・特例一時金
日雇労働被保険者 ・日々雇用されていた方
・30日以内の期間を定めて雇用されていた方
・日雇労働者給付金

同じく一般被保険者が受け取れる「傷病手当」は、健康保険の傷病手当金とは異なるため、注意をしましょう。

受給ケース 受給資格者 支払元
傷病手当 離職(失業)後にハローワークで
求職の申込みをした後、
病気やケガが原因で15日以上続けて
就職できない状態となったとき
雇用保険の被保険者 雇用保険
傷病手当金 在職中に業務外で発生した
病気やケガが原因で会社を休業し、
事業主から十分な報酬を得られないとき
健康保険の被保険者 加入している
健康保険や共済組合

② 就職促進給付

就職促進給付とは、失業者の早期再就職の促進・援助を目的に、

  • 就業促進手当
  • 移転費
  • 求職活動支援費

などが支給される給付制度です。就職促進手当の中には、よく耳にする「再就職手当」や「就業手当」が含まれます。

種類 受給ケース
就業手当 所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上を残して、
再就職手当の支給対象外の職業に就いたとき
短時間の就労など
再就職手当 所定給付日数の3分の1以上を残して、
安定した職業に就いたとき
1年以上の継続した雇用が確実と認められること
就業促進定着手当 再就職手当の支給を受けた者が、
再就職手当の支給に係る再就職先に6カ月以上雇用され、
そこでの6カ月の賃金が離職前の賃金よりも低いとき
常用就職支度手当 障害のある方や、45歳以上で再就職援助計画の対象者など、
就職が困難な方が、ハローワークまたは民間職業紹介事業者
の紹介で安定した職業に就いたとき

ハローワークで紹介された職業に就くために引っ越しが必要となった際や、ハローワークの職業指導により教育訓練を受けることになった場合も、必要な「就職促進給付」が支払われます。

③ 教育訓練給付

労働者の主体的な能力開発やキャリア形成を支援することを目的に、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給される給付制度です。

教育訓練給付制度の概要

教育訓練給付を受けるためには、雇用保険の加入期間などの条件がありますが、パートやアルバイトの方も対象です。教育訓練の種類によって支給額が異なり、美容師・保育士・税理士・簿記検定など対象講座はさまざまあります。

④ 雇用継続給付

雇用継続給付とは、職業に就いた後の職業生活の継続の援助・促進をおこなうための給付制度です。高年齢雇用継続給付金や介護休業給付金があります。

育児休業給付とは

育児休業給付とは、雇用保険の被保険者が育児休業の取得により収入が減少する間、経済的負担を少なくする目的で設けられた給付制度です。

子供が出生してから8週間以内に、合計28日を限度として産後パパ育休(出生時育児休業)を取得し、一定の条件を満たすと「出生時育児休業給付金」を受け取れます。

また、働く方が原則1歳未満の子供を養育するために育児休業を取得し、一定の条件を満たした場合には「育児休業給付金」が受け取れます。

企業が受け取れる雇用保険の助成金

雇用保険の中には、雇用調整助成金をはじめ、労働者の雇用維持や生産性向上、労働環境の改善、雇用管理の改善、雇用創出を目的とした助成金・補助金の受給が可能です。

助成金の種類 目的
雇用調整助成金 事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、
労働者の雇用維持を図るために、
休業手当などの一部を助成する制度
業務改善助成金 中小企業・小規模事業者の
生産性向上のための取り組みを支援する制度
既存不適合機械等更新支援補助金 既存不適合機械等の更新が進まない
資力の乏しい中小企業を支援する補助金
産業保健関係助成金 ストレスチェック助成金、
職場環境改善計画助成金、
心の健康づくり計画助成金、
小規模事業場産業医活動助成金が該当
人材確保等支援助成金 中小企業に雇用管理の改善・雇用創出を
目的にした労働環境の向上を
図るための助成金
時間外労働等改善助成金 労働者の労働条件の改善のために、
時間外労働の削減や賃金引き上げに
向けた取り組みを実施した場合への助成金

一部抜粋

労働者保護の観点から労務関連の法改正が続いていますが、雇用創出や雇用維持を目的にした場合、事業主は助成金・補助金が受給できます。

雇用保険に入ってない場合の罰則は?

事業主が雇用保険未加入だった場合、6カ月月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。罰金に加えて、雇用保険料の追徴金や延滞金の納付が命じられるケースもあります。

罰則が与えられる条件は「適用要件を満たしているにもかかわらず、雇用保険に入っていなかった」場合です。

雇用保険の加入漏れに気づいた場合、加入義務が発生したときまでさかのぼって加入の手続きをおこないます。6カ月以上前にさかのぼって加入する場合、遅延理由書などの提出が求められるため、事前にフォーマットを取得しましょう。

まとめ

65歳以上雇用や女性の活躍促進、優秀な人材の確保・定着が事業主の重要な経営課題になるなかで、法改正が進む雇用保険に迅速な対応が必要です。

雇用保険は政府が管掌する強制保険制度です。法令順守の観点からも雇用保険の加入漏れがないかどうかしっかり管理しましょう。

なんば社会保険労務士事務所 監修者難波 聡明

社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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